越えられない恋愛境界線

1/10
前へ
/86ページ
次へ

越えられない恋愛境界線

 久しぶりにサークルに参加するため、徳香は体育館に向かっていた。もう始まっている時間だったが、徳香は特に慌てる様子もなく歩いている。  先ほど雪乃から、仕事が終わらないから今日は休むと連絡があったこともあり、徳香はやる気が出なかった。  サークルメンバーからの要望で、ここのところ金曜日に活動が入っていた。次の日が休みだから、飲んで帰ろうというのが狙いらしい。肉体労働の徳香自身も、金曜日の活動はありがたかった。  修司にフラれてから約二週間。徳香の中でもだいぶ吹っ切れてきた。大丈夫と思えたからこそ、今日こうして来ることも出来たのだ。  ただ、このサークルにいる意味が見出せなくなっていたのも事実で、修司にフラれた今、バスケをするためだけに留まる気が起きなくなっていた。  それにあの夜以降、信久との関係もギクシャクしていた。普段通りメッセージを送っても、彼の反応が以前とは違うような気がしていた。  きっと私が何かしたんだ……でもそれがわからないからどうしようもない。それでも信久との関係をなくしたくなくて、いつもと同じ振る舞いをするしかなかった。  なんかもう頭がぐちゃぐちゃ……辞めようかな……サークル。そんな考えが頭をよぎっていた。  更衣室に入ると誰もいなかったため、ゆっくりと着替えを済ませる。それから荷物を持って体育館の中に入っていった。  試合が既に始まっていて、楽しそうな声が響く。しかしその中に修司の姿はなかった。  荷物を置こうと壁際に歩いて行くと、そこに修司が立っていた。最初は戸惑ったものの、徳香は深呼吸をしてから修司に笑いかけた。 「こんばんは。笹原さんが試合に参加してないなんて珍しいですね」 「うん、実は小野寺さんを待ってたんだ」 「私……ですか?」  徳香は荷物を置くと、修司の隣に立つ。彼は少し困ったように頭を掻きながら、言葉を探しているようだった。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

509人が本棚に入れています
本棚に追加