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修司の態度から、徳香は彼が言おうとしていることを察する。
「君に『ちゃんと長崎さんに想いを伝えるように』って言われてから、俺もいろいろ考えたんだ……それで逃げてるばかりじゃ先に進めないって思ってさ、この間彼女を呼び出したんだ」
その先は聞かなくてもわかるような気がした。彼の嬉しそうな顔を見れば、全てがうまく行ったのだとわかる。
それでも徳香は修司の言葉に耳を澄ませていた。
「その……結論から言うと、OKをもらえたんだ……だから付き合うことになったよ」
「それは良かったです。私が背中を押した甲斐がありましたね!」
「本当に……小野寺さんにはなんて言ったらいいのか悩むんだけど……やっぱり『ありがとう』って伝えたいんだ」
修司の言葉を聞いて、徳香はにっこり微笑んだ。複雑な気持ちだけど、それでもお礼を言われることは嬉しい。
「君に喝を入れられなかったら、今もまだ友達のままでいたかなって思うんだ。それはそれで楽しかったしね。でも彼女と付き合うことになったら、なんていうかもっと欲が出てくるというか……一緒にやりたいこととか増えてきてさ」
「そういえば、長崎さんってスイーツが好きって言ってましたよね。笹原さんもお好きなんですか?」
「メロンパンは好きだけど、スイーツはあまり詳しくないんだよね。だから、彼女と一緒に知っていくのもいいなぁって思ってる」
「はぁ……私フラれたのにノロケですか?」
「あっ! ご、ごめんね! デリカシーなさすぎ……」
そんなふうに慌てる修司を見るのが初めてだった徳香は、思わず吹き出した。
「いいんですよ。でももうお腹いっぱいですけどね」
「……小野寺さんはすごく良い子だと思う。きっと君のことを好きだっていう男が、案外近くにいたりするかもしれないよ」
「さぁ……どうでしょうね。でももっと良い女になって、そういう人をゲット出来るように頑張りますよ!」
「それは頼もしいな」
二人は笑い合う。この間フラれた時は、正直もう笹原さんの顔を見て笑顔になることは無理だと思っていた。それがこんなふうに笑い合えるなんて……。
すると修司は何かに気付いたかのように、手を振り出した。
彼の視線の先には杏と信久がいた。それを見た徳香ははっとする。しかし信久と目が合ったかと思えば、パッと逸らされてしまう。
もしかして信久も長崎さんから聞いた? 少し距離があるため、表情がはっきりと読み取れない。それでも徳香は信久が心配でならなかった。
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