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* * * *
サークルのメンバーたちが飲み会へと流れていく中、徳香は信久と一番後ろを歩きながら、意を決して口を開く。
「あの……もしかして長崎さんから聞いた?」
「あぁ、笹原さんと付き合うことになったらしいね」
信久はいつものように返事をしたが、それを聞いた徳香の方が唇を噛んで泣きそうな顔になる。
「えっ、なっ、どうしたの⁈」
「だって……とうとう信久も失恋組の仲間入りしちゃったわけでしょ? なんか私まで悲しくなってくる……」
そうだった。ついその設定を忘れていた。でもそうやって俺の心配をしてくれる徳香に胸が熱くなる。
信久は徳香の頭を撫で、笑顔を向けた。
「大丈夫だよ。それよりも、飲み会に行く? それとも俺を慰めてくれる?」
「そ、そんなの決まってるじゃない! うちで信久の激励会をしよう! お互いの失恋を分かち合おう」
徳香の笑顔を見ていると、自分の中に今までにない感覚が芽生えてくる。
二人はグループから外れて駅に向かい歩き出した。徳香の手が信久のコートを掴む姿が、彼の心を甘く締め付ける。
『何かその壁を越えるきっかけがあるといいね……』
杏の言葉を思い出す。壁を越えるきっかけ……そして頭に一つの答えが浮かぶ。でもそれはきっと許されないこと……。だから徳香の選択に任せるしかない。それに、純粋に俺を励まそうとしてくれている徳香の想いを踏み躙ることになるかもしれない。もしそうだとしても、これ以外の選択肢が見つからなかった。
辛いな……でもこのままの関係はもう無理なんだ……友達でいることは出来ない。
どちらにしろ、今夜を最後にしよう。気持ちを全て伝えたら、俺は徳香の前から消えよう。
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