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知らなかった彼のこと
体に残る気怠さに身を委ね、やる気も予定もない休日をぼんやりと過ごしていると、突然スマホが鳴る。
信久かもしれないという微かな希望を抱いて画面を見た徳香は、雪乃の名前を見た途端がっくりと項垂れた。それでも気持ちを奮い立たせてメッセージ画面を開く。
『最近あまり話せてなかったし、ちょっと聞きたいこともあったから、これからお昼でも食べながらお喋りなんてどう?』
お昼……確かにそろそろお腹が空いてきた。
『行く』
『よし、じゃあいつものファミレスに一時間後ね』
『了解』
メッセージ画面を閉じると、徳香は大きく息を吐いた。そうよ、今は塞ぎ込んでいたって仕方ない。
着替えをしようと思って部屋着を脱ぐと、急に昨夜のことを思い出して恥ずかしくなった。
信久……なんか上手だった気がする。ああ見えて結構経験アリなのかな……。そんなことを考えてなんだかモヤっとした。
私なんか短大の時に付き合った人だけだし、それにすごく久しぶりだったのに……気持ちよかったなんて口が裂けても言えない。
『好きだよ……徳香……』
彼の優しい言葉、唇の感触、息遣いと共に、あの時の幸福感が蘇る。
私ってばどうかしてるのかも……笹原さんに失恋したばかりなのに、頭の中は信久でいっぱいになってる。
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