アプローチって難しい

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* * * *  信久が杏に話しかけるのを確認すると、徳香は納得したように大きく頷き、修司の方へ向き直る。 「笹原さん、スリーポイントのシュートって、どうやったら上手くなれますか? なかなか入らないから、コツとか知りたいなぁって思って」 「それは俺も知りたいよ〜。さっき俺が外すところ見てたでしょ? 経験者の近藤さんとかに聞いた方が早いよ」  いやいや、私は笹原さんから聞きたいだけなの!  「そっか。じゃあ近藤さんに聞いてみますね」  きっとこのネタじゃ話は続かない。次の話題を探さないと。 「そういえばこの間笹原さん、メロンパンが好きって言ってましたよね。"ピオーネ"っていうお店のメロンパンは食べました?」 「えっ、知らない。どんなメロンパンなの?」 「まわりはサクサクなんだけど、中のパンがしっとり滑らかで、溶けて消えちゃう感じ。是非笹原さんに食べてもらいたいなぁ」 「うわぁ……話聞くだけで美味しそうなんだけど……」  そりゃそうよ! 笹原さんに興味を持ってもらいたいから必死になって探したんだもの。 「今度行ってみるよ! いい情報をありがとう」 「じゃあ今度一緒に行きませんか? 私もまた買いに行きたいし」 「ありがとう。でも悪いからさ、今度俺が買いに行った時に、小野寺さんの分も買ってくるよ」  あぁ、そうじゃないのに……。これは遠回しに断られたのだと自覚する。やっぱり好きな人がいる人にアプローチするって難しい。  すると修司は仲間たちに呼ばれて再びコートに戻っていく。 「小野寺さんも入る?」  しかし杏が戻ってきたため、徳香はため息をついた。今撃沈したばかりだし、今一度体制を立て直さないと。 「私は次のゲームに参加するので、どうぞ行ってください! 応援してますね!」 「そう? わかったよ、ありがとう」  それから徳香は視線を感じて信久の方に視線を向ける。  信久は紀香に向かってさり気なく指で丸を作る。 『こちらは結構話せた』  徳香は軽く首を横に振る。 『こちらは撃沈』  お互いの状況を確認し合った二人は、目を合わせると大きく頷いた。 『後で反省会』 『了解』  そして再び目を逸らした。
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