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店に着くと、遠くで手を振る雪乃が視界に入り、徳香は迷うことなく席に着いた。
「ごめん、待った?」
「大丈夫。私もさっき来たところ。何食べる?」
「ミックスフライ定食とドリンクバー」
「だよね」
雪乃が呼び出しボタンを押し、やってきた店員に注文をする。それからいつものようにドリンクバーに飲み物を取りに行きながら、雪乃は徳香の変化に気付いたのか、不思議そうに声をかける。
「なんか寝不足? 元気ない感じがするけど」
そう言われて、徳香はギクリとする。つい口を閉ざしたものだから、勘の鋭い雪乃は何かを察したかのようにニヤッと笑う。
「何かあったな? いやね、その何かを聞こうと思ってたんだけど。本当に徳香ってばわかりやすいんだから」
席に戻ってからも、徳香はモジモジしながら口を開こうとしない。そのため雪乃から質問を始めた。
「松重さんと何かあった?」
「……なんで信久だと思うの? 違うことかもしれないじゃない」
「そうやって膨れるところを見れば、図星だってわかるのよ。喧嘩でもしたの?」
膨れてると言われ、徳香は慌てて両手で頬を押さえる。それから眉根を寄せて下を向いた。
「あのね……信久に告白された……」
「……あぁ、やっぱりそうだったんだ、納得した」
「へっ⁈ なんで納得するの?」
驚きを隠せない徳香を見ながら、雪乃はジュースを思い切り吸い込む。
「なんでって、松重さんの態度を見てればなんとなくわかるようなものだけど。逆に何も気付かない徳香の方が鈍感じゃない?」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ……だって信久は長崎さんのことが好きだったんだよ? 私のことを好きな素振りなんて見たことないよ……」
「じゃあ徳香に聞くけど、普通の友達同士が、別々の飲み会に出ているのにも関わらず、一緒に帰る約束なんてする?」
「だって方向が一緒だし、信久もいいよって言ってくれたから……」
「だからそこ。徳香ってば気付いてないの? 松重さんは、徳香が飲み会で誰かと一緒に帰るのを阻止したかったんだよ。はっきり言えば俺のものに触るな的な独占欲」
「独占欲……?」
「普通はただの友達にそんなことしないって。そう考えると、リハビリっていうのも徳香に近付くための口実だったのかもしれないよ」
確かに信久もそんなことを言っていた気がする。
「でも……リハビリが始まったのって、かなり前の話だよ?」
「じゃあ松重さんは、相当前から徳香を気にしてたってことかな」
徳香は口を閉ざした。雪乃と話していると、いろいろなことに気付かされ、頭が混乱し始める。
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