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体育館に入る時、いつも以上に緊張した。それは修司にフラれた時とはまた違う感覚だった。
あれから信久に日常会話のようなメッセージを送ってみたが、既読になることはなかった。
入り口の前で深呼吸をし、意を決して中に入るが、集まっている人の中に信久の姿はなかった。
これから来るのだろうか……しかし徳香は信久の言葉を思い出して急に不安になる。
『俺は今日を最後に徳香の前から消える。もう友達には戻らない』
あれってどういう意味だった? 私の返事を聞かないで、消えたりしないよね? でもメッセージは既読にならない。それはもう私とは会わないという意味にも取れてしまう。
そこへ雪乃が慌てた様子で徳香を元へやってくる。
「徳香! いま部長に聞いたんだけど、松重さん、サークル辞めちゃったんだって!」
あぁ、やっぱり……徳香は青ざめた顔で肩を落とす。悪い予感とは当たるものなんだ。
「……知ってた?」
心配そうに顔を覗き込む雪乃に、徳香は力なく首を横に振った。
「ううん、知らない。ただなんかそんな気がしちゃってただけ……」
その時、体育館に入って来る杏の姿が視界に入り、徳香ははっとする。
確か長崎さんと信久は同じ職場だったはず。もしかしたら何か知っているかもしれない。
「ごめん、雪乃! 私のちょっと長崎さんのところに行って来るね!」
雪乃の返事も待たずに徳香は杏の元へと走り出していた。はやる気持ちを抑えつつ杏に近寄ると、彼女の方が先に徳香の存在に気付いた。
「あっ、小野寺さん。こんばんはー」
「あっ、こ、こんばんは……。あの、長崎さん、今少しお時間いただいてもいいですか?」
杏は少し驚いたように目を見開いたが、そのまま笑顔で頷いた。
「いいよ。体育館の中で大丈夫? 外に出る?」
「そんな! 体育館で大丈夫です」
体育館の壁際に荷物を置いてから、杏は床に座る。それから隣をポンポンと叩くと、徳香に座るように合図した。
促されるまま徳香は杏の隣に座ると、すぐに口火を切る。
「突然すみません……あの……松重さんのことを聞きたくて……」
「松重くんのこと?」
「はい……その……松重さんがサークルを辞めたってさっき聞いて……時々長崎さんと社食で一緒になるって聞いていたので、何かご存知じゃないかと思って……」
「そういえば最近社食では会ってないなぁ。エレベーターとかですれ違ったりはしたけど……どうしたの? ケンカでもしちゃった?」
「えっ! い、いえ……そういうことではないんですけど……」
徳香が困ったように笑うのを見て、杏は何かを察したかのように眉を上げた。
「もしかして、告白された?」
「……!」
「あぁ、やっぱり」
「あの……やっぱりとはどういう意味ですか?」
不安そうな徳香をよそに、杏は優しく微笑んだ。
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