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サークル終了後に修司たちが飲みに行くと話していたため、徳香はその後の流れに耳を澄ます。
もし長崎さんが参加するなら私も……そう思っていたが、女性は皆帰ると言ったので、飲み会は男性だけになりそうだった。
雪乃も帰ると言うし、それよりも信久との反省会の約束を破るわけにはいかなかった。
駅までサークルのメンバーと歩いて行き、各々の利用する電車のホームに向かう。徳香と信久の使う路線は偶然二人しかいなかったため、何の問題もなく二人きりになれた。
「じゃあまたね〜」
「お疲れ様でした〜!」
手を振って別れると、二人はホームへのエスカレーターを昇り始める。しばらくは誰に見られるかわからないため、二人はホームで一度別れて別方向に向かう。
『あの二人は付き合ってる』なんて勘違いをされたら困るから。
到着した電車に乗り込むと、徳香は空いている席に座る。それから少しして、信久が車内を歩いてくると、徳香の隣に座った。
「徳香のことだから、飲み会に行くって言うと思った」
信久が軽く笑いながら言ったので、徳香は目を細めて彼を睨みつける。
「まぁ確かにちょっと迷ったけど。でもさすがにみんな年上だし、あのメンバーの中に一人では行けないよ。それに明日も仕事だしね。今日はお酒飲む気なかったから」
あまりお酒に強くない徳香は、飲むなら週末のみと決めていた。でないと持ち帰りの仕事を終わらせることは出来ないかったし、次の日にお酒が残るかもという不安を持ちたくなかったのだ。
「……徳香のそういうところ、悪くないよな」
「えっ、いきなり何⁈」
「褒めてるんだよ。幼稚園教諭がどういう仕事か俺にはわからないけど、真摯に取り組む姿勢はカッコいいと思うし」
徳香は驚いたように目を見張る。それから嬉しそうに頬を緩ませた。
「……信久って、話してみるとすごくいい奴だよね」
「そう?」
「うん、なんかもったいない」
「いいよ、別に。俺のことをわかってくれる人にだけ伝われば。まさか徳香がそんなふうに思ってくれるとは思わなかったけど」
「それはお互い様でしょ」
信久はあの時みたいに柔らかく笑う。その笑顔は徳香の心を和ませた。
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