アプローチって難しい

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 徳香は足を組むと、その上に肘をついて信久の方を向く。 「で、今日は長崎さんとはどうだった? お喋りは弾んだ?」 「まぁそこそこ。長崎さん、スイーツが趣味らしい」 「へぇ。食べるのが好きってこと?」 「いや、新しいスイーツを発掘するのがって言ってたかな。だからオススメがあったら教えて欲しいって言っておいた」 「いいねぇ! 次に繋いでる」 「そっちは?」 「ん〜……なんかね、頑張って話題は振ってるんだけど、遠回しに断られてる。これって気持ちがバレてるのかなぁ」 「……まぁバレてるだろうな」 「やっぱり⁈ 私も長崎さんみたいに、もう少し控えめにしてみようかなぁ」 「今更? もう手遅れだと思うけど」  信久に言われて、徳香は激しく落ち込んだ。 「ガツガツするのは良くないけど、明るく前向きな徳香は元気がもらえる感じがして良いと思うよ」 「……本当?」 「本当」  不思議、信久といると、ありのままの自分でいられる。でも本当はそれじゃいけないって思うのよ。だってそのままの自分は笹原さんの好みじゃないと思うから。もっと自分を磨かないかないと、好きになってもらえない気がする。 「徳香さ、今週末って暇? 観たい映画があるんだけど、一緒に行かない? ちなみにミニシアター、フランス映画」 「あっ、それ観たいと思ってたやつかも!」 「じゃあ決定ってことで」  その時、電車が信久の最寄駅に止まる。ドアが開くと少し残念な気持ちになる。 「待ち合わせ時間とか後で連絡する」 「了解。じゃあまたね」 「ん、お疲れ様」  信久は立ち上がり、紀香に片手を上げると電車から降りた。  信久と話すようになって一ヶ月が過ぎようとしている。私は思いの外、彼のことを気に入っていた。だって同じ趣味の友達なんて初めてだから、会話が通じることの楽しさをようやく知ったの。  もっと話したかったな……でも週末に話せるからいいか。  誰かと映画に行くのなんて面倒だったのに、この一ヶ月で三回も一緒に映画館に行ってしまった。  信久となら一緒に行ってもいいって思えるんだよね。本当に不思議だわ。  
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