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雪の国
館のしじまに舞い踊る牡丹雪は昨晩からしんしんと降り積もりて候う。
ようやっと襖を開けた女は渡り廊下をしずしずと横切り高欄に手をかけると息を白く染めながら庭園を眺める。
その凛と伸びたる背中を見たならば齢六十と誰が思おうぞ。
病に伏して幾星霜。
命の灯火今まさに使いきらんというところ今朝は寝覚めが稀有に良く顔綻ばせ雪雲を仰ぐ。
喝采のごとく降り満ちたるこのあまたなる白粒たちを顔に受け止めては熱にてほどきゆく。
果たして頬に伝う雫は溶けた雪であるのか涙であるのかは女のほかに知るよしもなし。
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