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授業中、「わかる人ー」と先生が言う。
周りから「はーい」と半数以上の生徒が手を挙げている。
五科目の成績は常にトップだった私は、その答えは勿論わかっている。
しかし、クラスの中で「はーい」と声を出し挙手することすら出来ない。
私は母から押さえつけられて日々生きているなかで、主張するということが全く出来なくなっていった。
簡単に解答出来ることすら。
そんな中、教科は忘れてしまったが授業参観があった。
生徒の座席の後ろには、化粧臭い母親たち。
母が見ている。
手を挙げて答えなければ、何を言われるかわからない。
取り敢えず手を挙げるだけなら、、と考えた挙句、周りのクラスメイトが指名される直前に手を挙げる、という技を考えたのだ。
今になって考えると、本当に馬鹿馬鹿しいけれど。
答えはわかるけれど、答えることが出来ない私が辿り着いた技だ。
これで大丈夫。
私はクラスメイトの誰かが指名される直前のタイミングで控えめに「はい」と小さく手を挙げた。
何度も何度も繰り返し。
授業参観が終わり母親たちが後ろのドアから出て行くと、帰りの会が始まる。
私は浅はかだった。
家に帰ると、むすっとした顔で母が言った。
「お母さん、恥ずかしかったよ。何でちゃんと手を挙げないの⁉︎なんなの、あれ。」
私の編み出した時間差挙手の技は、大失敗に終わる。
怒る母親に、私は何も言えずただ俯いて怒りが収まるのを待つしかなかった。
普段から母親の望む通りに生きていくことしか出来ず、自分の意見や主張をすることが出来なくなってしまった。
母から何かを提案されて、それについて考えたり思いを言葉にする機会というものが我が家には存在しない。
こうしなさい。
ああしなさい。
これが出来ないとだめ。
結果だけを求められ、そこへ行き着くまでの過程を教わることはない。
ただ100点を取るための勉強をするしか、私はなかったのだ。
感情を表に出すことも、成長と比例して乏しくなっていく。
楽しくて声を出して笑う、嬉しくてはしゃいだり喜んだり。
そんな当たり前なことも出来ない。
五年生にもなると、自分を客観的にみるようになり、自分には何もない、寂しい子供だと思うようになった。
笑顔のない私を、母親は相変わらず、
「根暗」だと言った。
近所では相変わらず「浅瀬さんちの羽美ちゃんは頭が良くて羨ましい」と噂され、母は喜んでいた。
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