悪い男

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母は結婚前、生まれ育った土地で働いていた。 織物産業が盛んなその町で、機織り工場に勤めていたらしい。 そんな母が何故遠く離れた海のある土地へ嫁に来たのか。 「田舎に戻りたい。こんなところ来るんじゃなかった。」 母はよくそう言っていた。 機織り工場で知り合い、当時初恋ともいえる恋愛をしていたようだ。 好きだった『やっちゃん』という男性に突然別れを告げられ、自暴自棄になった母は 「とにかくここを離れたかった」 それだけの理由で、父との見合い話にのってしまったというわけだ。 誰でも良かった。 その人を忘れるためには、誰でもいいから結婚して、故郷を離れたかったのだ。 しかし母は言う。 「お父さんと結婚なんかしなければよかった」 「結婚してから幸せだと思ったことは一度もない」 じゃあ何故離婚しないのか。 答えはいつも同じだ。 「子供たちのため」 意味がわからない。 確かに昔の女性というのは、結婚したら死ぬまで連れ添うものかもしれない。 何があろうと、耐え忍んで夫に尽くす。 離婚をして3人の娘を養うことは難しいだろう。 私が高校、専門学校に進学出来たのも、父が働いて稼いでいたからだ。 だけど。 毎日毎日愚痴を聞かされ、父に対するストレスを私に向けていた母には、 「子供たちのために離婚出来ない」 とは言って欲しくはなかった。 子供のためだと思うのなら離婚を。 離婚しないのなら、私を自由にして。 ずっとそう思っていた。
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