妄執

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父が亡くなる3、4年ほど前だったろうか。 息子と2人、賃貸アパート暮らしの私は、中古マンションの購入を考えていた。 高い家賃を毎月払うくらいなら、買ってしまった方がいいかもしれない。 年齢的にも最後のチャンスだ。 父は心不全を患っていたし、母もいつ娘の手を借りなければならなくなるかもわからない。 親を憎んでいるはずの私は、息子に提案をした。 「中古マンションを買って、ジジとババを引き取って一緒に暮らすのはどうかな。」 息子は一瞬「え?」という顔をしたが、 「まぁ、いいんじゃない?」と言った気がする。 頭金を200万くらいで毎月5、6万支払うと何年でローンが終わるか。 サイトでシュミレーションをしながら、毎夜考えていた。 実家で暮らしていたあの地獄の様な日々、双極性障害と向き合いながら、許すことが出来ない親とひとつ屋根の下で暮らすなど、何故私は考えたのだろうか。 介護のプロである私が親の面倒を見るべきだ、と自分で思っていたのか。 いや、多分。 私は長女里美に対しての当てつけだ。 「羽美には絶対親の面倒をみさせないようにする」 「お姉ちゃんは長女だし、親のことは何とかするから」 私が鬱病になってから、そう言っていた姉に対して、ずっと思っていたーー (一番離れて暮らしている貴女が、どう面倒みるのですか?)
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