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当時、市営アパートには子育て世代が多く、いつも子供たちの声で賑やかだった。 「浅瀬さんのところの羽美ちゃん、頭いいんだってね〜」 「羽美ちゃんは大人しくて、勉強も出来て羨ましいわ」 そんなことを言われるものだから、母親は調子に乗ってしまったのだろう。 当の本人は、勉強が好きなわけでもないし、内気で人と関わるのが苦手なだけで、決して優秀な子供ではなかったのに。 最初の過ちは恐らくこの頃だろう。 私は、勝手な大人たちの噂話と母親が嬉しさのあまり調子に乗ってしまったことで、これを境に【優等生】を演じなければならなくなった。 母親の言う通りに動き、母親の期待を裏切ることなく生きていかなければならない。 僅か、5、6歳の子供だというのに。 小学生になると、テストや成績表で評価が明らかにされる。 勿論、テストでは100点しか許されない。 毎日憂鬱だった。 しかし、100点をとることよりも難しいことが私にはあった。 どうしても克服出来ないもの。 運動神経というものだ。 スポーツの出来る者が本当に羨ましかった。 自分なりに、親に隠れて密かに縄跳びの練習をしたり、洗面所のシンクに水を張り、顔を漬ける練習をした。 努力しても、私の運動神経というものはどうにもならなかった。 今はどうだかわからないが、昔は運動神経の悪い者は虐めの対象だった。 特に私のような5科目だけ優秀で、体育の成績だけが著しく悪い子というのは、虐めの標的だ。 勉強などせずに、いっそのこと成績が悪ければ虐められなくて済むのに。 いつもそう思っていた。
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