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物心がついた頃には両親は既に不仲で、幼い私でもそれはわかるほどだった。
成績優秀で物静かな三女、私を溺愛しているかの様にみえた母親とは違い、父は私の成績や学校行事などには無関心だったけれど、日曜日には私を連れて近所を散歩したり、遊び相手になってくれた。
小学ニ年生の時、歳が離れた姉たちは中学生。
高校受験を控えていた。
登校時間や帰宅時間も違うため、あまり関わりがない。
私は一人っ子のようだ。
母は姉たちの高校受験には然程興味がなく、私にばかり執着していた。
もしかしたら姉たちは寂しい思いをしていたのかもしれない。
それとも、自分たちにあまり関心を持たないことを気楽に思っていたのか。
今となってはよくわからない。
私は姉たちが羨ましかった。
周りから見れば、私は溺愛されていたのかもしれない。
でも、いつも思っていた。
私は籠の中の鳥だ。
母の理想とする娘でいなければならない。
母の喜ぶことしかしてはいけない。
母の思い通りに生きなければならない。
両親が結婚する前に、父が女と住んでいたアパートで使っていた三面鏡。
その一番上の小さな引き出しには、母が眉を整えるために使用していたピンク色のカミソリが入っている。
一緒に住んでいた女が使っていた三面鏡は、母と結婚する際、父が唯一家財道具として持ってきたものらしい。
勿論そんなことはいらない情報であるが、幼い私に「お父さんはね、、、」と母は何度も言っていた。
死んでしまいたい。
そう初めて思ったのは、小学三年生の時だ。
ピンク色のカミソリを左手首に当てたのを覚えている。
線状に赤黒い血が浮かび上がる。
痛くて、すぐにカミソリを引き出しに戻す。
あの頃の母は、今の私より若い。
娘がこっそり、自分のカミソリを手首に当てたことなど、未だ知らないだろう。
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