血縁

1/1
前へ
/197ページ
次へ

血縁

気が強く決して性格が良いとは言えない兄姉たちの末っ子として、漁師家庭に生まれ育った父親。 潜りだった祖父(父の父親)の顔は、遺影でしか見たことはない。 一方、母は海のない県で、多才で紳士な父と、笑顔の可愛いほのぼのとした母の長女として生まれた。 母は未だに「お爺さんは本当に頭がきれる人で、自慢のお父さんだった」と言う。 年に一度程しか会わない祖父であったが、私も祖父のことが大好きだった。 母とは違い、寡黙なおじいちゃん。 それでいてユーモアもあり、ちょっとした世間話も面白おかしく話す一面もあった。 書や水墨画も、素人の私からしてみれば、何処かの有名な書道家の作品にしか見えないようなものばかりだ。 それが全て独学であったとは信じ難い事実である。 私が後に介護福祉士として30年働いた背景には、祖父のたったひとことがある。 進路を考える時期に、私は障害者福祉の道を選択しようとしていたが、その私に祖父は 「羽美には老人福祉の道に進んでおじいちゃんの世話をして欲しい」 そう言ったのだ。 私は何故かその一言で、進路を老人福祉に変更したのである。 老人介護の世界を離れた今でも、その時の選択は正しかったと思っている。 祖父は、私と血縁関係がある人間の中で唯一尊敬している人物だ。 そんな祖父は、私を導く一言を放った一年後、癌でこの世を去ってしまった。 今でも私の側で見守ってくれている気がしてならない。 大好きなおじいちゃん。 でも、ごめんね。 お母さんはおじいちゃんの大切な娘なのに。 私はどうしてもお母さんを許すことが出来ない。 おじいちゃん、ごめんなさい。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加