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「何やってんだよ、姉貴」  弟の智也が呆れ切った顔で、静かに怒っている。  本当は、おめでとう、と笑顔で迎えてくれる筈だった。 「ごめんってば! もう少し、待ってよ!」 「……届いてないって言われたし、諦めたら?」  返事せず泣き出した私に、智也は溜め息を吐きつつも駅舎の前に停めた車のエンジンを切った。  つい数時間前までは歓喜の涙が頬を濡らしていたのに、奈落に落ちるとはこの事だ。  今日は『全国調理師専門学校大会』が開催され、私こと、野村小春が見事に優勝した。  専門学校の皆んなと打ち上げに行き、優勝の喜びと緊張からの解放とで、ベロベロになるまで飲んだ。2次会にも行って、皆んなに見送られて電車に乗った。  本当に幸せだった。  夢うつつ気分で寝過ごしそうになった最寄り駅で、慌てて降りる。  車で最寄り駅まで迎えに来てくれていた智也に、 「あれ? 優勝トロフィーは?」 と、聞かれ酔いが一気に覚めた。  智也にはまだ優勝したことを伝えてなかったから、からかい半分で言ってきた言葉だったけど。 「ああああ! 置いてきちゃった!」  電車の中に、優勝賞金とトロフィー、賞状や書類などを入れた紙袋を全部忘れてきてしまったのだ。  慌てて駅舎に戻り、駅員さんに確認して貰ったが、忘れ物は届いてないとの事だった。  全ての運行が終われば、駅員による点検があるので、その時にあれば連絡をすると言ってくれた。  でも、賞金が入っていたなら盗まれてる可能性も高いよ、とも言われてしまった。  賞金は仕方ない。  でも、賞状と優勝トロフィーは、どうしても返して欲しかった。  両親は普通の大学に行くことを願っていた。 でも、反対を押し切って、調理師専門学校に進んだ。    その年、両親は交通事故で亡くなった。  私は共働きだった両親に代わってよく夕飯を作っていた。  両親も弟も喜んで食べてくれることが嬉しくて、調理師を目指した。  私の作った美味しい料理を、もっともっと食べて欲しかった。進学の事で喧嘩したけど、行って良かったねと認めて欲しかった。  でも、もう叶わない。  だから、せめて頑張った証を、両親の位牌に供えたかった。  何やってんの、私。  智也が怒って当然だった。
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