この無限ループからの卒業……出来ると思ったかそいつは幻だ

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それ位、マジでしんどい手丁合いの作業。 毎日毎日、同じページをひたすら重ねて組み合わせ続けるだけでもかなりキツイのだが、筆者君達の場合は、そこに更なる別のミッションが付与されていたのである。 それは――「各ページの誤字・脱字」や「印刷のずれ」が無いかの確認だ。 ちなみに、このテキストの原稿については、以前書いたように講師達が時間をかけて誤字・脱字が無いかをしっかり確認している。 が、中にはサボる方もいらっしゃるのか……完成したテキストには誤字・脱字が散見されることがちょいちょいあるのだ。 勿論、誰がどの原稿の確認をしたかはしっかり分かっているので、通常なら誤字・脱字を見逃した講師は目茶苦茶怒られる。 が、中堅やベテラン以上の講師が担当していた場合は、上層部様の対応も、決して怒るばかりではない。 というか、お気に入りのベテラン講師の場合は、どんなに彼or彼女が担当したページから誤字・脱字がボロボロ発見されても、上層部様は全力でスルーを決め込むのだ。 いや、ほんとマジで。 ときには、 「いやいや、逆に忙しいのに原稿の確認をしてくれてありがとう」 とか、 「人間誰しも間違いはあるよ、仕方ない仕方ない」 とか、言っちゃうのである。 いやもうなんぞ? この手のひら返し。 まぁ、しかし――これが「ブラック企業」なのである。 権力もコネもない平民は、ただただひたすら黙って業務をこなしていくだけなのだ。 そうして、日々、手丁合いをしては、組んだテキストを何度も読み直し、誤字・脱字やずれがないかを確認していく筆者君。 勿論、印刷室勤務になっている他の講師達も同様だ。 全てのテキストを組み上げるまで、手丁合いと確認作業は延々と続いていくのである。 それこそ、塾講師には、担当する教科によっては授業がない曜日なんてものもあるが――そんな日は、朝から晩までずっと印刷室だ。 で、ひたすら手丁合いと確認をし続けるのである。 加えて、この埼玉本部――近隣にある上層部様のおうちへの利便性に合わせて作られている為、実はかなり辺鄙な場所にあったりしてしまうのだが。 なんと、この埼玉本部の周辺、飯屋はおろかコンビニが1件もない。 つまり、講師達にとっては唯一印刷室から解き放たれるのが昼休みだけなのだが――その昼休みすら、印刷室から逃げられない訳だ。 だって、皆、弁当持参だったから。 埼玉本部だけではなく、これはこの学習塾全体の話なのだが――お金に余裕がない為、基本的にはどの校舎にも講師達が食事を摂る別スペースなんてものは殆どない。 なので、お弁当を持ち込んだ場合、講師達は自分達の机や空き教室で食べるしかないのだ。 が、印刷室勤務の講師達には本部に机なんて存在しない。 故に、唯一息抜きが出来る筈の昼休みですら、原稿やテキストを見つめながら、ただ黙々と弁当を無言で食べるのみなのである。 日の当たらない印刷室で。
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