この無限ループからの卒業……出来ると思ったかそいつは幻だ

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「吉右衛門さんは、私に女としての喜びを思い出させてくれたの!!私をもう1度女にしてくれたのよ!!それを、こんなしわくちゃのババアがぁぁぁ!!!」 「何よ!吉右衛門さんは私の方が魅力的だって誉めてくれたわ!!僻むんじゃないわよ、この奪衣婆!!!」 アラ還の醜い争いここに極まれり。 皆さん、もう良いお年なんですし、先ず落ち着こう? なんて思いはするものの、口には出せず。 ただ、黙って見守る筆者君。 しかし、ご婦人達の争いは徐々に激しさを増していく。 「吉右衛門さんは私の方が好きだって言ってるでしょぉぉぉ!!」 「違うわよ!!吉右衛門さんが本当に愛してるのは私よぉぉぉ!!」 そう叫びながら、遂にはお互いの頬に平手打ちを食らわせ合うご婦人達。 (ああ……アラ還女子のキャットファイトが始まってしもうた……) 筆者君は絶望的な気持ちで、アラ還2人のキャットファイトをじっと見つめていた。 と、そんな2人に駆け寄る人影が1つ。 「2人とも、僕の為に争わないでくれ!!」 そう、此方が吉右衛門さんだ。 芸能人で例えるなら「いかりや 長介」似の86歳である。 「僕は2人とも愛しているんだ!!だからどうか、喧嘩をしないで欲しい!!」 そんな最低な台詞を吐きながら、キャットファイト中のご婦人達に近寄っていく吉右衛門さん。 すると――なんということだろう。 吉右衛門さんの台詞は最低な筈なのに、アラ還女子達がピタリとキャットファイトを止め、頬を赤らめながら彼の方を振り向いたではないか。 「吉右衛門さんっ……!」 「私達の心配をしてくれるなんて!なんて優しいのっ……!」 (えええええ……) アラ還女子がとても乙女な表情をしているよ。 そうして、アラ還女子はタッと駆け出すや、ぎゅっと吉右衛門さんにしがみつく。 やってることは何処かの青春ドラマみたいなのだが、如何せん絵面が地獄である。 だって、年齢とかはさておいて、全員既婚者ぞ? 離婚してないのよ? それを――ここまで堂々と職場でカミングアウト出来るとは。 「吉右衛門たん、ちゅき!」 ご婦人が何やら赤ちゃん言葉を使い始めた。 「僕もトメたんちゅき!」 すると、すかさず吉右衛門さんも赤ちゃん言葉で返してくる。 以降、赤ちゃん言葉で愛を囁き合う3人。 (ひえええ……) ベルセルクの蝕に巻き込まれたような気持ちになりながら、筆者君は目の前の地獄絵図をただ呆然と見つめていた。
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