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「そういや、愛美って今引越し考えているって、この間言ってなかったっけ?」と流我が肉団子を頰張りながら切り出した。
「うん。今のアパートに住んでもう4年か5年くらい経つし、出勤にも時間がかかるから、もう少し職場の近くに引っ越そうかなとは思っている。でも、何処に住もうかまだ考え中というか。通いやすい路線の近くで考えているんだけど。」
「じゃあ、東急東横線とかだったら、乗り換えなしで会社まで行けるね。」
「うん。できるだけ乗り換えは少ないほうがいいかなぁ。」
「とりあえず今日、陽平の店の連絡先もらっときなよ。コイツはマジでセンスも良いし、今すぐじゃなくてもしたいときに相談乗れるだろうから。」
「あ、うん…。」
自分から他人の連絡先など聞けない愛美にとってはありがたい言葉だ。
流我のさりげない導きと、面倒見の良さにはいつも感心する。入社当時は同期の人数も今より数人多く、その中でまとめ役を買って出るような存在だった。今回の営業成績もこれまで積み重ねてきた彼の行動が表していることが安易に想像できる。
「陽平、今日は名刺持ってる?」
「あるよ。」と、着ていたシャツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、愛美だけでなく 柚希や翔にも名刺を渡した。
『不動産屋とお客』という少しビジネスライクではあったが、陽平の大きな手から差出された名刺を受け取る時に手が震えそうになった。白地に黄色の半円が描かれたシンプルなデザインに、『濱内不動産』と明朝体で大きく印字されているのが印象的だ。
しばらく名刺の裏、表と繰り返し眺めていると横に座っていた総一郎が小さな手で愛美の腕を掴み、小声で耳打ちしてきた。
「ねぇねぇ、マナミン。」
「ん?」と言いながら、愛美も総一郎の方に顔を寄せた。
「いつか一緒に大きなお家に住もうね。」
「ほんと?楽しみだなぁ。」と、総一郎の言葉に応えると、ニコッと満面の笑みを見せて、嬉しそうにはしゃいだ。そんな可愛い姿を見て、愛美も思わず笑顔になった。
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