某家守近のこと

13/16
前へ
/16ページ
次へ
パチン、パチンと、小刻みに(はさみ)の音が鳴り響く。 暫く後、「よぉし、こんなところか」と、守近の嬉しそうな声の前には、長良が散らかした紙が、細かく刻まれ、小山を作っていた。 「守近様!貴重な紙を刻んで!勿体無いのうございます」 長良が、非難の声を挙げる。 書き損じた和紙は、試し書きにしたり、長良なりに工夫を凝らして、幾度も使っていたのに。それを、あっさり、(ごみ)にしてしまうとは……。 「ではでは、これでも、長良は、勿体無いと言うのかい?」 それっと、守近のかけ声と共に、長良に向かって、紙が舞い飛んで来る。 「う、うわっ!」 避ける暇もなく、長良は、まともに、紙切れを受けた。 「そうれ、長良、紙吹雪だ!」 顔に、へばりつく、紙切れを払う長良のことなどお構いなしで、守近は、それそれと、投げつける。 「うわぁ!もお!」 「ははは、悔しいか?ならば、お前も、投げ返してご覧。さあ、雪合戦だ!」 長良は、足元に散らばる紙切れをすくい取ると、守近へ、投げつけた。 「おおっとっ!」 守近も、頭から紙切れを被っている。 へへっと、笑い、何処か得意そうな長良に、守近も負けていない。 「それ!」「よしっ!」「どうだ!」「うわっ!」 愉しげな声が響く──。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加