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「まあ、にぎやかですこと」
房の戸口から、鈴を振るような声が流れてくる。
守近と長良は動きを止めて、声の主へ顔を向けた。
「おや、徳子姫。いかがなされました」
「守近様の楽しそうなお声に導かれて参りました」
柔らかな笑みをたたえる華奢な女人──、守近の正妻、北の方、徳子が、女房達を引き連れ立ち止まっている。
裏方の仕事の途中なのだろうか、連れている女房達は各々、菊の鉢植を抱えていた。
その鉢植を見て、守近は、重陽の節句が近いことを思い出す。徳子は、その準備に追われているのだろう。
ここで、今年の宴は、どうするのかと問うのは、野暮の極み。守近は、気が付いていない振りをする。
徳子に任せておけば、大丈夫。今年も、皆が驚く、趣向を凝らした宴を開くに違いない。守近は、期待した。
こうして、主人の面子を保ち続けるのが、奥を守る正妻のお役目。
その采配次第で、家の繁栄が決まると言っても過言ではない。
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