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「ところで、守近様。これは、一体……」
散らばる紙切れを、徳子は見る。
「ああ、長良がね、手習いが上達しないと、癇癪を、起こして、紙を、ビリビリと。せっかくですから、気晴らしに……」
守近は、言って、長良に視線を送る。
先程の事を思い出した長良は、両手で口を押さえ、こくこく、頷いた。
「……そう、このように。あれ!お気をつけなさい。吹雪ですよ!」
徳子へ向けて、守近は、紙切れをふわりと投げる。
きゃっ、と、挙がった小さな悲鳴と、ははは、と、からかう笑い声が被さった。
「ああ、これは大変だ、徳子姫が凍えてしまう!」
言いながら、守近は、徳子にかかった紙を払ってやった。
寄り添う二人の姿に、まるで、絵巻物から抜け出したかのような見目麗しさと、女房達は、はぁと、憧れのため息を漏らしている。
「……黄紅葉ですか。お似合いですよ」
萌黄色と、黄色を品よく合わせた、纏う衣の色目を、守近は徳子の耳元で、囁いた。
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