某家守近のこと

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血筋良し、見映え良し、少将の位を持つ男、守近。 当然、やんどころない姫君手ずからの色香漂う(うた)が届く。 別に、守近が頼んだ訳ではない。 まあ、貰えればそれなり嬉しくはある。 その程度の文が、毎日屋敷へ届き、守近の(へや)に、うず高く積み重なっていた。   ただ、困るのは、どれが本命からの文か、わからなくなっていることか。 先日など、本命の姫に返歌(へんじ)を送ったところ、知らぬ下男が現れて、停めてあった牛車(くるま)に乗せられ、得たいの知れない屋敷に連れて行かれた。 否、古び過ぎて、朽ち果てそうな(わび)しさが、守近の不安を煽ったのだが、果たして、(こや)同然の(あるじ)ときたら、住みかと同じく、鬱々とした華のない女。 (とばり)越しでも、公達(きんだち)と呼ばれる男ならそれぐらいわかる。
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