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挙げ句、側付の老いた女房が、盛んに杯をすすめ、事を急かせる。
これは、たまらんと、守近は、急な差し込みが、などと、見え透いた仮病を使って逃げ帰ったのだ。
本命の姫へ送った文が、誤って届いた結果なのだろう。
確かに、あれだけ文が送られてくれば、返事の行き違いも起こりえる。
以来、かの姫君のご機嫌は、しごく悪い。
そろそろ潮時なのかも知れぬと、守近は思う。
いや、長良一人に任せるのも、無理が来ているということなのだろう。
はぁ、さて、どうしたものか。
勤め明け、屋敷の自室でくつろいでいたはずが、おかしな事を思い出し、守近は顔をしかめた。
と──。
「あああぁーー!」
隣の、控えの房から、側付の童子、長良の叫びが響いてきた。
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