某家守近のこと

3/16
前へ
/16ページ
次へ
挙げ句、側付の老いた女房が、盛んに杯をすすめ、事を()かせる。 これは、たまらんと、守近は、急な差し込みが、などと、見え透いた仮病を使って逃げ帰ったのだ。 本命の姫へ送った文が、誤って届いた結果なのだろう。 確かに、あれだけ文が送られてくれば、返事の行き違いも起こりえる。 以来、かの姫君のご機嫌は、しごく悪い。 そろそろ潮時なのかも知れぬと、守近は思う。 いや、長良(ながら)一人に任せるのも、無理が来ているということなのだろう。 はぁ、さて、どうしたものか。 勤め明け、屋敷の自室でくつろいでいたはずが、おかしな事を思い出し、守近は顔をしかめた。 と──。 「あああぁーー!」 隣の、控えの(へや)から、側付の童子、長良の叫びが響いてきた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加