君の雨

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”久しぶり!今、電話しても大丈夫?” スマホが震え、メッセージが届いた。 (えっ?) そのメッセージは私を驚かせただけでなはく、身体の中にピンと張った緊張のようなものを生じさせた。いやそれはメッセージによるものではなく差出人による驚きだ。  そして、そのメッセージは差出人の声となって改めて私に届いた。 『アキー、久しぶり!突然でごめん!今話せるかな?電話していい?』 あの頃の優しくて懐かしい声色となって届いたメッセージはすぐに心地良い空気となって私を包み込み、生じた緊張のようなものを一瞬にして忘れさせていく。私はその桜色の空気に包まれタイムスリップし、映画のように流れ始める、やや色褪せた思い出の中に誘われていった。  高校に入学してすぐの合宿。二日目の朝のランニングを終えて、皆がぞろぞろと朝食に向かう時のことだ。 「紀ちゃん!私、ジャージ忘れたから先に行ってて。」 「オーケー!」 暑くて脱いだ上着をグラウンドの鉄棒にかけていたことを思い出して取りに行く私と、同じく上着を取りに来ていた君。君が私のジャージを取り違え、手にして去ろうとした時に話かけたのが最初だった。
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