君の雨

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「あ、あの・・・それ、あたしのジャージ。」 「えっ?あ、ごめん。」 間違って手にしていた紺色のジャージを私に手渡し、照れながら微笑む君の笑顔に私も自然と微笑み返していた。鉄棒にかかっている自分のジャージを取って、君は言った。 「遅れると怒られるよ!急ごう!」 「うん!」 この君との会話で、私は初めて『時が止まるということはこういうことなのかな?』ということを知った。そして足早に食堂へ向かう君の背中を見つめてながら君の後を追った。気づけば、その時から私は君を目で追うようになっていたようだ。  そして奇遇にも朝早く登校する私たちは、当たり前のように挨拶をするようになった。君は電車通学で私は自転車通学だったけれど、毎朝、私が教室の一番乗りで、君が2番目に教室にやって来る。そして先に登校している私の待つ教室の扉を開けて、君が私の名前を呼んで入ってくる。 「アキー、おはよう。」 「おはよう、理人くん。」 それは誰も知らないほんの少しだけの二人っきりの空間と時間で、君の笑顔で私の今日一日が輝き始める瞬間だ。晴れた日も雨の日も、どちらでもない曇りの日も・・・。
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