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君が私の名前を呼んでくれると少しだけ名前の最後が力なく伸びていて、他の人を呼ぶ時とは違う特別感のようなものを私は感じていた。それでいてまるで捨てられ震えている子犬のような、か細くてソフトな声は私に情のようなものまでも湧かせていた。ほんの少しだけの二人っきりの空間と時間は、守ってあげたいような、支えてあげたいような、そばにいてあげたいような気持ちでいっぱいになる、私にとって幸せ以外の何物でもなかった。
それから程なくして私の気持ちなどお構いなしに、君は別のクラスの他の誰かと仲良くなって、彼女と一緒に下校するようになって、2番目に教室に来なくなってしまった。
そしてあの日、私は君があの子と付き合っているという噂を耳にしたのだ。
「あの二人、遠出して遊園地に行ったんだってよ。」
「お似合いだね。」
聞きたくなかった話に、私の心は欠けた。
それからも一番乗りで過ごす一人きりの教室での時間はとても長く、少しだけ期待しながら待つ空間は孤独の箱だった。それでも私は取り残された箱の中で、いつかのように一日が輝き始める瞬間をずっとずっとずっと待っていた。
「ねぇ、アキって、もう理人のこと好きじゃないんだよね。」
「あ、・・・うん。」
「理人さぁ、麻紀と付き合いはじめて性格変わったよね。昔はもっと優しくていい感じのやつだったのに、性格悪くなってない?ってか可愛くないよね?」
「・・・。」
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