潜降01m LOGBOOK~約束の場所~

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潜降01m LOGBOOK~約束の場所~

『初島』熱海から約30分の船の移動でたどり着く島。 今、そこに2匹のイルカがいるんです! 「オーナー、おはようございます! 」 「おはよう、桃ちゃん! 今日は早い船で出来たんだね」 「はい。もうお客さんもワクワクで、3本くらい潜りたいって」 「ははは。で、やっぱり彼女らでしょ? 」 「もちろんです! どうですか? 」 「うん。陸からは彼らの背びれが見えてるんだけど、まぁ彼女らは気の向いたとき遊ぶ感じだね。本当に自由な存在だよね。でも、最近は午前中のほうが遊びに来るよ」 初島の島裏ポイント『ニシマト』 1年前から住み着いた2匹のイルカ。 通常、ダイバーの吐く息の音を嫌うイルカ。 多くのイルカポイントがスキンダイブなのはそこに理由がある。 でも、この2匹はスクーバの音を気にしない珍しいイルカ達だ。 そして、ここにはダイバーとイルカの間で結ばれた『約束の場所』があるんだ。 「桃ちゃん、イルカ見られるかな? 前、一度来たときは見れなかったんだよ。見てみたいなぁ」 「はい。私も見たいです! でも彼らは野生のイルカ。食べたい時に食べる。遊びたい時に遊ぶ! だからこそ彼らと会える瞬間が尊く感じませんか。水深わずか9mの約束の場所で来るか来ないかわからない彼らと会うってロマンティックだし。でもきっと彼女らはやってくる。信じて潜りましょう」 「義男さん、和美さん、いきますよ。レギュをくわえて、フィンをはいてください。ではそのままロープ沿いに潜降します—」 遠浅のニシマト。 ガイドロープは沖合の砂地まで延びている。 5mの大きな岩を通る時、不意に物凄い数のタカベたちが通り過ぎた。 魚影が濃いとますますイルカ達がやってくるんじゃないかと期待が高まる。 水深9m 『約束の場所』 周りには多くのダイバーが、ただ彼女たちが来るのを待っている。 10分、20分、修行のようなひたすら待ちのダイビング。 すでに先に来ていたグループはあきらめて『約束の場所』から離れていく。 30分、私の中で葛藤が生まれる。 ここを離れて少しでも他の生物を案内すべきか、ここに最後までいるべきか。 他のグループはもう残っていなかった。 私もこの場を離れる決断をした。 『あっちに行こう』 両手の親指を進行方向に向け、合図を送る。 2人を連れてその場から数メートル離れた瞬間、何かが私の脇を通り抜けた! ビュッ!! ブワッ!!っと音が聞こえるくらいのその勢いに驚き振り向く。 2匹は体をくねらせ方向転換すると、顔をあげ、鼻先を小刻みに振りながら、私たちをしっかり確認すると戻ってきた。 勢いよく突進する1匹は私たちの前で急減速し、スーっと鼻先を和美さんの顔の前に寄せてくる。 和美さんの顔をその目で確認すると、クルンと回り込んで体を回転させて遊びはじめた。 まるで、『おいで、おいで、遊ぼうよ』と言っているようだ。 もう1匹は鼻先に海草をひっかけていた。よく言われるイルカのキャッチボールだ。 イルカはそれを相手にパスをして遊ぶのだ。 もう私たちのテンションは最高にMAXだ。 心の中で『やって来た! やって来た! 彼女らだ!! 』と叫びまくる。 しかし、イルカと触れ合う時の厳しいルールがあるのだ。 『決して触ってはいけない』 でも、私は手を思い切り振り2匹の気を引こうとした。 それに呼応するように2匹は私とゲストの間を縫うようにくぐり抜ける。 周りを回っては近づき、その瞳で私の顔を覗き込む。 ああ、なんてもどかしいことか。 2匹の顔をなでなでしたい!! イルカはそのつぶらな瞳で気持ちを伝えてきた。 瞳が合わさると『もう行くよ』と尻尾を大きく振り、海の霞の中に消えていった。 ほんの5分くらいの出来事。 でもそれは20分にも30分にも感じる瞬間だ。 ・・・・・・ ・・ 「ヤバくない!? 」 「いや、ヤバすぎでしょ!! 」 義男さんと和美さんは語彙をなくした状態だ! 実は私も.... (感動した! 絶対私と眼をあわせたよ。きっと私に会いに来たんだ!! ) 心の中ではそう思っていた。 「桃ちゃん、持ってるね! おかげで見ることが出来たよ」 「最高でした。桃さんのおかげで忘れられないダイビングでした! 」 「ふふふん、そういう言葉はもっと言ってくださっていいのですよ」 義男さんは豪快に笑った。 「それじゃ、LOGBOOKつけましょうか」 ・・ ・・・・・・ 『LOGBOOK』 ダイビングの記録をつけるための本。 初心者からベテランまで、ひとつひとつのダイビングの記録を残している。 そして、そこには忘れられない思い出も刻まれていく。 ここから語る物語は私と『大切な人』との出会い、そしてダイビングとの出会い、 ひとつひとつのかけがえのない思い出が刻まれるLOGBOOKなのです。 そのページを今、めくります。
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