潜降14m 車輪の空気

1/1
前へ
/75ページ
次へ

潜降14m 車輪の空気

「また抜けたの? 今月でもう3回くらい入れてない? それムシゴムが悪くなってるか、どこかに小さな穴あるんじゃない? 自転車屋で見てもらった方がいいよ」 「いつもすいません」 「別にいいけど、もうやり方わかるよね。自転車用のそれ付けて空気入れるんだよ」 自転車の空気を入れに来たのは坂の下の看板屋の哲夫さんだ。 この夏にもう3回くらい自転車の空気を入れに来ている。 ++++++ ++ 「わかんないよ~。これってどういう意味かわかる? お父さん」 「俺がわかるわけないだろ。自動車保険以外は専門外だ! 」 「え~、一応火災も資格もってるよねぇ? 」 「借家賠(しゃっかばい)を付けなきゃいけない理由ってなんだろう.. 」 今回、私はヨコザワ電機設備㈱の社長に質問をされたのだ。 質問はこうだ。 『うちの火災保険だけど『什器・設備』の火災保険のほか、借家人賠償保険ていうのが付いているんだけど、これってどういう理由で付いてるんだっけ? これって桃ちゃんが付けたよね? 』 「付けなきゃいけないって理由で付けたんだけど、詳しくはよくわからないよ 」 「おまえ、それ『理由』になってないぞ! ちゃんと勉強してきたのかぁ? 」 [ 哲夫くん、これ、ここに自転車のムシゴム1個あったよ。これ交換しておきなよ ] [ あ、ありがとうございます ] 工場から、そんな会話が聞こえてきた。 哲夫さん! 確か、哲夫さんは司法試験をがんばっていて法律には詳しいはず! —ガラッ 「哲夫さーん!! 丁度よかったー! 」 「あ、あ、あ、あ、桃さん」 「ねぇ、哲夫さん法律詳しいでしょ? これってわかる? 」 ・・・・・・ ・・ 「なるほど、借家人賠償責任保険を付けなきゃいけない理由ですね? 」 「そうなの。もう5時過ぎちゃってるから、保険会社に電話つながらないんだ。ね、知ってたら教えて! 」 「たぶん、これは代位請求権とかに関係してると思います。例えばですね、A会社が火災を起こしてB会社の保険を—」 「なるほど~、さすが哲夫さん! すごくよくわかった。助かったよ 」 「いえ、それほどでも.. 」 「今度、お礼するね。また来てね! ありがとう 」 「ええ。じゃ、また来—」「お父さーん、わかったよーっ!」 **** 8月、精一杯に鳴く蝉の声に混じって着信音が鳴った。 ~♪~ (あ、宮野さんからだ) 「もしもし」 「もしもし宮野です。おねーちゃん? 」 「あ、優佳ちゃん。元気? 」 「うん。お姉ちゃんは元気? 」 「うん! 元気だよ!! 」 「よかったー! あのね、パパにかわるね」 「おお、かきさわ、おまえ土曜日空いてるか? 」 「はい。一応 」 「じゃ、ちょっとお出かけしないか? 優佳と涼子と一緒に」 涼子さんは、復縁した宮野さんの奥さん。 それと優佳ちゃん。 お出かけ?? いったいどこへ?
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加