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潜降05m 波音
「なんで、なんで長尾さん.... あんな事を」
「まぁ、しょうがないだろう。俺から言わせてもらえば馬鹿なことだよ。あんなの直ぐバレる事なんだから。でも、それだけ追い込まれていたって事だろうな」
「はい.. でも残念だし悲しい。長尾さん、いろいろ教えてくれたし、小早川君が私に命令するとよくかばってくれたし」
この日の朝の会議は研修生営業部の鬼・岡村部長の怒鳴り声から始まった。
「おい、長尾、おまえどういうつもりなんだ、バカヤロー!! おまえはクビだ。すぐにここから出ていけ。出ていけー!! 」
研修生はこの3年で、代理店として食べていけるくらい凄まじい数の契約を結ばなければならない。
契約手数料を挙績として換算し毎月厳しいハードルをクリアしなければ研修生として失格の烙印をおされてしまうのだ。
長尾さんはそのハードルの苦しさからお客さんの名を無断で使い、自分で保険料を払いながら架空契約をしていたのだ。
当然、研修生制度から除籍となった。
「おいおい、柿沢.. そんなにしょぼくれるな。よしっ、今日は飲みに行くか。財布は気にしなくていいからな」
「えっ、宮野さんがおごってくれるってことですか。やったー! 」
「おまえな.... 現金な奴だな」
・・・・・・
・・
「え~と.... こちら、どなた様ですか、宮野さん? 」
「ああ、実はな、もともと飲み会があってな、そこにお前を呼んだだけなんだよ」
「はぁ。で、どういう....? 」
「ああ、前の仕事の後輩で今は沖縄に住んでいる水島とそのお友達」
「君が柿沢さんだね。はじめまして水島です」
「はじめまして砂川です」
「は、はじめまして柿沢です」
水島さんは宮野さんの後輩で、砂川さんは水島さんのダイビング仲間ということだ。
2人は東京に来たついでに伊豆にダイビングをしていくと言っていた。
その夜、宮野さん、水島さん、砂川さんと楽しい時間を過ごした。
水島さんと砂川さんの話は、東京しか知らない私には眩しすぎる話だった。
沖縄の太陽、海の青さ、温かさ、サンゴ、魚の話は、何にも知らない私の心をどこまでも青くしてくれるようだった。
「今日は楽しかったです。私はそろそろ。あとは男3人で楽しんでください。いろいろ沖縄のお話聞けて.. ありがとうございました」
財布から出そうとするお金を3人は受け取らなかった。
そのかわりに砂川さんは私の名刺を受け取ってくれた。
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研修生はおじさんばかり、部屋に帰っても整備会社の人と会うくらい。
でも、今、私の部屋は、沖縄の海の音がするようになった。
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