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ボクは私を演じきる
ピカピカの革靴とシワひとつない制服、舞う桜。
廊下で響く笑い声、笑顔が絶えない教室。
そう、こういう高校生活を望んでいたんだ。
だけど・・・この自分は私なのかな?
高校一年生・四月
ソワソワした雰囲気が教室に漂う。
それはそうだ、ここは私立の高校で附属の中学校はあるもののほとんどは高校から新入生でお互い全く知らないのだから。
名札に印刷された自分の名前を見て少しばかりため息をつく。
この中にうまく溶け込めるだろうか。こんな私でもいいのだろうか。
こんな私に友達なんてできるのかな・・・
もう友達の作り方なんて忘れちゃったよ。
ああそうか友達がいなければもう傷つくことなんてないんだ。
考えていると後ろからチョンとつつかれた。
「私は小野真凜。よろしくね!」
「小野さん、よろしく」
「真凜でいいよ〜えっと・・・サキちゃん?」
席が後ろであるということもあって真凜とはすぐ仲良くなった。
「真凜、次美術だよ。美術室行こう」
「サキちゃん、ちょっと待ってて」
廊下に面した個人ロッカーの鍵がガチャガチャと音を立てる。
「サーキ!美術室行こう!」
「うわっ!!びっくりした。なんだ純夏か・・・」
私を驚かせてくるのは同じクラスの純夏。いつもニコニコしていてアニメ好き、しかも人柄がいいという完璧さ。
「あっ、そういえばこの前の新刊読んだ?」
「読んだ、読んだ。あの主人公が・・・」
ドサドサドサッ
後ろを振り返ると真凜のロッカーが凄まじいことになっていた。
「サキ〜どうしよう〜助けて〜」
「いいよ、その代わりお弁当のおかず一個ちょうだい」
「いいよ!ウインナーでも卵焼きでもなんでもいいから!お願いします!」
「よかろう」
私はしゃがんでなだれの被害にあった教科書たちを力ずくで縦に入れ直す。
「また教科書平積みにしたでしょ、あんたの場合プリントも奥でぐちゃぐちゃになってるんだから平積みにしたら斜めにずれ落ちてくるって話したよね!?」
「ううう、返す言葉もございません・・・」
「次やったらおかず2個だから」
「お二人さん急いでね〜、授業やばいよ。サキ、前にも次やったらおかず2個って言ってたのに忘れた?」
「忘れてないよ、反省してくれればなんでもいいからね・・・よし!終わった!」
「神様、仏様、サキ様〜ありがとうございますぅ〜」
「真凜、私のこと崇めてる暇があったら急ぐよ」
「サキの鬼ぃ!」
チャイムスレスレで美術室に滑り込んだ。
クラス中からの視線が痛い気がした。
「バイバイ〜」
「バイバイ〜気をつけてね」
真凜と純夏に見送られて電車を降りる。
乗り換えた先のタタンタタンというリズムが静かでまるでボクに寄り添ってくれるみたいだなって思った。
寄り添う存在だなんて
もういらないよ
「ただいま」
誰もいないのは心地いい。
ひとりの時だけボクはボクでいられるんだ。
「隠してるのは辛いなぁ」
ふと、独り言を呟く。
親が好きなのは小説が大好きで漫画やアニメなんて一切興味の無くて、ニコニコしてて、辛いことなんてない「私」。
でもボクは漫画やアニメにバリバリ興味あるし、上部だけのニコニコだし、辛いことなんてたくさんある。
純夏や真凜の顔が浮かぶ。
「ボク」のことを知ったらどんな反応をするんだろう。
『邪魔だから居なくなってくれる?』
『消えてよ』『サキなんて死ねばいいのに』
いきなり目の前が真っ暗になる。
真凜や純夏は違う。絶対にそんな反応しない。
でも、心の中で恐れている自分がいる。
「良くて軽蔑、悪くて拒絶かな」
ボクのことを見てくれる人は誰もいないな。
これからもきっと現れないし。
そんなことわかりきってるし、期待なんて今更してないよ。
ただ、どうしようもなく辛いな。
いっそのこと本当に消えてしまおうか。
「ハハッ」
乾いた笑い声がリビングに響く。
そうだよ、なんで気づかなかったんだろう?
ボクが消えて困る人なんていないじゃないか。
「・・・あ」
真凜と純夏の顔が頭にうかぶ。
あの2人なら悲しんでくれるだろうか。
答えは・・・わからないな。
一生わからなくていいのかも。
それにボクは純夏や真凜のことを信じられてるかな?
大切に思えてるかな?
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