鏡の中の世界

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エメラの前で銀の髪から海水をポトリ、ポトリと落としながら肩で息をするステン。体がひどく濡れているのはもちろんだが、エメラの目にはもう一つ気になる点が。手で押さえている腰から流れるのは赤い雫、きっと血だ。 「…っ!」 そんな状態にもかかわらずにステン君はその場をさろうとした。そんな彼の手を私も思わず掴んでいた。 「待って!」 「…エメラ…、関わっちゃいけない。」 「で…でも。」 エメラがステンを捕まえていると、遠くから声がする。 「…もう一度、もう一度探せ。」 「アンバーさんから連絡があった。強盗は残るはこっち方面に逃げた一人だけだ。」 懐中電灯の明かりがチラリ、チラリとあちこちで光りだしていく。 「…こっち。」 「…。」 私はステンくんの手を引いてとにかく隠れることにした。たくさんの倉庫の中たまたま扉が空いているところを見つけ、二人で入った。 動物のための牧草や穀物がたくさんある倉庫の隅に座り込んだ。 「…ステンくん…怪我を見せて…。」 「…いや…、これは…。」 「いいから。」 エメラはステンの上着を取り外す。腰からの血がまだ止まることなく溢れている。いつの間にステンの手の甲まで真っ赤に染まるほど。エメラはとにかくステンの上着と自分の短いワンピースの腕の部分を更に短くするように歯で切り、応急的に腰の血に蓋をした。 手を伝う、血の温かさが。夜の暗さが、二人きりの環境が、見つかってはいけない空気が、エメラの脈を早くしていた。額に汗をにじませながら、なんとか、手当を終える。 「……どう…?ステン君。」 「…あ…ありがとう…。でも…。」 ステンはエメラと目を合わせない。 「…その…服は…弁償するから。」 エメラは首を横に降った。 「それより…説明して…。一体どうなっているの?」 「あ…ああ。…そう…か…。」 ステン君は返事に困っていたが、私もどうすればいいかわからなくなる。 「…一度…ここで休みましょう。夜が深いから。」 「…。」 ステンとエメラは倉庫で夜明けを待った。
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