オタマジャクシの降る町で

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 私のおじいちゃんはハッキリ言って変人だった。頭にアルミホイルは被るわ家によくわからないアンテナ立てるわで近所の人たちはドン引きだった。でも私にとっては大好きなおじいちゃんだった。おじいちゃんがオタマジャクシを降らせた日のことはよく覚えている。おじいちゃんがいつもUFOを呼ぶみたいにデタラメな呪文を唱えると雨のように黒い点々が降り注いだのだ。おじいちゃんのおかげでよそから人が来るようになったのは嬉しかった。私の自慢のおじいちゃんだった。おじいちゃんが死んでお父さんとお母さんはこの町を離れたけど私は残った。おじいちゃんが盛り上げたこのオタマジャクシの降る町が好きだったから。  正直観光協会の職員にロズウェルの話をされた時には心が揺らいだ。試しに呼んでみてもいいかなと思った。まさしくおじいちゃんはこの町をロズウェルにしたいと言っていた。でもあの人の言う通り、UFOとオタマジャクシじゃインパクトが違う。所詮は一過性のブームだった。でかデカと町の境に掲げられた「ようこそオタマジャクシの降る町へ」の看板は錆びてボロボロ。見る影もない。ゆるキャラとして登場したオタマジャクシのタマジ君も最近じゃ見かけない。  卓袱台に肘をつきながら窓の外を見た。梅雨真っ只中らしい曇天の空。今にも雨が降りそうだ。私はおじいちゃんとの思い出をなぞるようにあのデタラメな呪文を呟いた。今でも覚えているものだ。結構長い呪文なんだけど。冒頭部分を口に出すと自然と続きの言葉が溢れてくる。おじいちゃん、オタマジャクシのことまだ覚えてる人がいたよ。もうみんな忘れてると思ってた。ウザい人だったけどちょっと嬉しいかも。
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