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出張
「脱げよ。今すぐ、全部」
いきなり投げつけられた言葉に、息を呑む。
普段は愛嬌があり可愛いと称される進藤の目が眇められると、とたんにその整った顔が冷淡に見えた。
でも、私をまっすぐ見つめる目だけ熱い。
ゾクッとしたのは寒気のせいだけではなかった。
手足は冷え切って痛いほどなのに、進藤の瞳の熱がうつったように胸の奥が熱くなる。
「早く!」
フリーズしてしまった私に苛立ったように進藤は急かした。
(脱ぐ……。そう脱ぐしかない。この状況では)
覚悟を決めて、私は震える手をボタンにかけた。
☆
「ようやく着いた〜!」
ふぅと息をついた私は売却予定の別荘を見上げた。
私は安住夏希。由本エステートという不動産ディベロッパーの企画開発部に勤めている。
仕事初めも早々にここに来たのは、開発予定の半分を所有する地主に新年の挨拶に行きがてら、土地の売却を口説いていたら、この別荘を売却してくれたらという条件提示があったからだ。
ここはギリギリ関東圏。都心から三時間。二車両編成のローカル列車しか停まらない無人駅を降りて、一時間に一本しかないバスに乗り、山を登っていき、徒歩三十分の場所にある。
つまり、ど田舎だ。
(笹本さんもなんでこんなところに別荘を建てようと思ったのよ!)
来るだけで疲れてしまうような辺鄙な場所にある別荘なんて、売れる気がしない。だけど、売らなきゃ交渉も進まない。
私はまずデータ収集しようと現地にやってきたのだ。
「う〜、寒い! もっと着込んでくればよかった……」
駅前の唯一の旅館に置いてきた保温下着を思い浮かべる。
ここまで山深い場所だとは思っていなかった私は、セーターにジーンズ、ダッフルコートという都心と同じ格好だった。
雪が残る道を歩いてきただけで、すでにスニーカーはもちろん、靴下までぐっしょり濡れていた。
(しまったなぁ)
インドア派な私は山とは無縁で、なにも考えていなかった。
でも、後悔していても仕方ない。
さっさと現状確認して、宿に帰ろう。
気を取り直すと、私は別荘の外観の写真を撮り始めた。
「外観は素敵よね」
それは瀟洒な洋館で、雪をかぶった木々の間から見える様子は、どこかヨーロッパの景色を思わせ、雰囲気はバッチリだ。
いろんな角度から写真を撮っていると──
「安住! やっぱりいた!」
突然、後ろから男性の声が響いて、飛び上がった。
振り返ると、進藤の姿が見えた。
(やっぱり来たのね!)
急いできたようで、息を弾ませ、くせ毛のふわふわの髪は乱れ、柴犬チックな丸い目はちょっと怒ってるみたい。
(抜けがけしたと思ってるのかな? まぁ、その通りだけど)
進藤巧。同期で私が最もライバル視している男。
受注も交渉も得意で、どんなに頑張ってもなかなか抜けない。
悔しいことに見た目も抜群で、そのアイドルばりの容姿に社内の女子から「かわいい〜!」と騒ぎまくられている。
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