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「まいったな……」
進藤が溜め息をついた。
視界が悪い中、やっとの思いでバス停にたどり着いたのに、時刻を見たら、バスは行ったばかりの時間。
しかも、『降雪時は運休の場合もあります』と貼り紙もあった。
(ウソでしょう? どうしよう?)
慣れない雪道で足はクタクタ、雪で下着まで濡れ、身体は凍りつきそうにガタガタ震えていた。
ここでバスが来るまで待つなんて無理だ。かといって、どうする?
「笹本さんの別荘まで戻る?」
そこまで行けば、少なくとも雪と風は防げる。問題はそこまでたどり着く体力があるかしら?
「いや、この辺に避難小屋があるって宿の人が言ってた。あぁ、あれか」
私たちが歩いて来たのとは反対側に小さな丸太小屋が目に入った。
(近くて助かる!)
ほっとした途端、足を滑らせて、進藤に支えられる。
「大丈夫か!? っていうか、むちゃくちゃ震えてるじゃないか! 急ぐぞ」
私を抱え込むようにして、道を急がせる進藤にムッとしたけど、それを振り払う力もなく、彼に触れたところが温かくもあり、腹立たしく思いながら、避難小屋を目指した。
小屋に着き、私を入らせると、進藤はもう一度外に出た。
とりあえず、スニーカーと靴下を脱いでへたり込んでいた私はただ眺めるばかりだった。身体が強ばって石みたい。
薪を抱えて、進藤が戻ってきた。
彼は中央にある薪ストーブに薪をくべ、火をつけた。
小さな火はだんだん大きくなって、火の熱が伝わってくる。
踊る炎を見るとほぅっと息をついた。
「手際いいわね」
「キャンプが趣味だからな」
「へー」
こんな顔して、キャンプするんだ。
まぁ、興味ないけどね。
ストーブの熱が顔に当たって、ちりちりした。
それでも、冷え切った身体を温めるには足りなくて、私はぼんやりその炎を見つめていた。
進藤はテキパキと備品を確認していたけど、あるのは一枚の毛布だけのようだった。
溜め息をついた進藤が振り返った。
「脱げよ。今すぐ、全部」
いきなり投げつけられた言葉に、息を呑む。
普段は愛嬌があり可愛いと称される進藤の目が眇められると、とたんにその整った顔が冷淡に見えた。
でも、私をまっすぐ見つめる目だけ熱い。
ゾクッとしたのは寒気のせいだけではなかった。
手足は冷え切って痛いほどなのに、進藤の瞳の熱がうつったように胸の奥が熱くなる。
「早く!」
フリーズしてしまった私に苛立ったように進藤は急かした。
(脱ぐ……。そう脱ぐしかない。この状況では)
覚悟を決めて、私は震える手をボタンにかけた。
水を含んで重くなったコートを脱ぎ、セーターを脱ぐ。
進藤が私が脱いだ服をストーブの向こう側に広げてくれる。
ジーンズに手をかけ、躊躇った私を進藤がせせら笑った。
「ふ〜ん、俺を意識してるんだ?」
「してないわよ!」
するわけないでしょ!とさっさとジーンズを脱ぎさった。
濡れた布から解放されて、直接ストーブの熱が肌に当たるとようやく温まる気がした。
「っていうか、あんたも脱ぎなさいよ! あんただって、意識してないでしょ?」
「……してるよ」
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