504人が本棚に入れています
本棚に追加
進藤は投げやりな手つきでゴムを取って結ぶと放って、デイバッグから出したティッシュで、私の股と自分のものを拭った。
そして、ペットボトルを取り出すと、「飲むか?」と聞いた。
喉がカラカラだったから、有り難い。
水を回し飲んで、ひと息つくと、私は彼に毛布を掛けた。
「……実はすげー淫乱なのか?」
ふいに進藤がつぶやいて、私は睨む。
「はぁ? なに失礼なこと言ってるのよ!」
「じゃあ、さっきのは……」
「緊急事態だったんだから仕方ないでしょ」
「緊急事態だったら、誰にでも抱かれるのか?」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあ、俺だから……」
「そんなわけないでしょ!」
なんだよ、それ、と進藤はむぅっと口を閉じた。
(緊急事態じゃなかったら、あんたとこんなことしてないわよ!)
結局、私のカバンに入っていたチョコを分け合い、抱き合って眠った。
寒いんだからしょうがない。
そして、夜更け、「寒い」とつぶやいた進藤にもう一度、貪られた。温まった。
朝になり、目を覚ますと、私は進藤をベッドにして寝ていた。
上には毛布だけでなく彼のダウンコートも掛けてあり、寒さはなかった。
目をつぶる進藤のあどけない顔と昨日の色っぽい顔とが一致しない。
(昨日のは夢ね。忘れるに限るわ)
私はそっと身を起こし、さっさと服を身に着けた。
外を見ると快晴。
よかった、宿に帰れそう!
しばらくすると、進藤も起きて、ぼーっとしている。
起き上がった身体から毛布が落ち、裸の上半身が剥き出しになる。
(均整の取れた身体を見せびらかそうってわけ?)
ぼんやりしている進藤は私と目が合うと、ニコッと微笑んだ。
(あざとい! あざと可愛い! でも、私にその手は効かないから!)
ぷぃっと横を向くけど、ヤツはまったく気にしていないようで、のろのろ着替え始めた。
朝は苦手らしい。
進藤の弱点を発見した。
「なあ、安住、昨日のことだけど……」
完全に目が覚めたらしい進藤は様子がおかしくなった。なぜか頬を染め、にじり寄ってくる。
(緊急事態はノーカウント!)
私は徹底的にとぼけることにした。
「昨日? なんのこと? なにかあった?」
「はあ? あっただろ!」
「夢でも見たんじゃない?」
私の身だしなみはバッチリ。なんの余韻もない。
少なくとも外側には。
「お前なぁ……」
進藤がなにか言いかけた時、なんと旅館のおじさんが迎えに来てくれた。
進藤にこの小屋のことを教えてくれたのは彼で、私たちが帰ってこないから、きっとここに泊まっているのだと思ったそうだ。
「ありがとうございます!」
使った分の薪を拾って戻し、私たちはおじさんの車で旅館に帰った。
(よし! ごまかしきった! 進藤と私はただの同期でライバル! それだけだから!)
私は小さくガッツポーズした。
最初のコメントを投稿しよう!