翌日

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「あっ、む、ぅん……、ん、あんっ!」  私は昨日に引き続き、進藤に貫かれて、揺さぶられていた。  ヤツは遠慮なく私の身体を弄りまくったり、ぶちゅっとキスしてきたり、やりたい放題だ。  ここは旅館の部屋の中。当然、寒くない。なのに、どうしてこんな展開になったんだっけ?  そう考えるけど、なにもかもどうでもよくなるくらい気持ちよくて喘ぐ。  進藤は本当になにをやらせても器用だ。ムカつく。              かまくらでぜんざいを食すという憧れイベントをクリアした。  隣りに進藤がいて窮屈だったけど、ヤツも一緒にかまくらを作ったから、中に入る権利はある。仕方ない。  ぜんざいは最高だった。  かまくらを満喫した後、女将さんが早めにお風呂を用意してくれたから、冷え切った身体を浴場で温めた。 「ふぅ〜、極楽極楽〜」  湯船にもたれると、身体の力が抜けていく。温泉成分が入っているというお湯はとろみがあり、肌に優しい。うっかりすると溶けて流れ出しそうだ。  五、六人でいっぱいになるような湯船だけど、どうやら客は私たちしかいないようで貸し切り。一人なら十分広い。  今頃、男風呂では進藤も同じようにお湯に浸かっているはずだ。  本当ならゆっくり浸かりたいところだけど、猫舌と同じで、熱いお風呂は苦手だ。すぐのぼせてしまう。  残念に思いながら、さっとあがると、浴衣を着て、帯を結ぶ。 「う〜ん、やっぱり縦結びになっちゃうなぁ」  蝶々結びが苦手で、いつも蝶々が縦になる。 (お母さんがいたら、正しいやり方を教えてもらえたのかな?)  考えても仕方がないことをふと思ってしまって、首を振る。   (ま、いっか、ここに気にする相手はいない。お父さんに怒られるわけでもないんだから)  厳格な顔を思い浮かべそうになり、慌てて振り払い、髪の毛を乾かした。  ショートカットだから、すぐ乾く。  部屋に戻り、ぼーっとしていると、進藤も戻ってきた。  浴衣を綺麗に着こなしているのが腹立たしい。    お茶を淹れてやる。  自分が飲むついでだ。  だから、そんなニコッと可愛く笑う必要はない。 「相変わらず、結び方、下手だなー」  わざわざ私の隣りに来て、お茶を飲んでいた進藤がちらっと私を見て笑った。 (近くに来たのはバカにするためね!)  むぅっと口を尖らせる。 「余計なお世話!」 「直してやるよ」 「へっ?」  ずいっとさらに近づいてきたヤツが私の帯の端を引っ張った。  するんと解ける帯。 「やっべー、このまま押し倒したい……」 「バカッ、なに言ってるのよ!」  昨日のことを思い出して、顔が熱くなる。  進藤はこんな無害な愛くるしいワンコ顔して、実は色情魔なんだろうか?  女子と二人きりになると襲わずにはいられないとか。  その割に悪い噂を聞いたことがないのは、襲われても喜ぶ子の方が多いからかも。  じりじり後ずさった私に、にんまり笑いかけて、進藤はささっと綺麗な蝶々結びを作った。 「もうすぐ夕食だから、()()やめとくよ」 (今はってなによ!)  私は座卓を回り込んで、ヤツから距離を取った。 「失礼します。お食事をお運びしますね」  ちょうどよく女将さんが夕食を運んできてくれた。    次々と並べられる十品。  お造りに天ぷら、地鶏ときのこのひとり鍋、土瓶蒸しもある。デザートはメロン。緑のやつじゃなくて、ちゃんとオレンジの甘い方。  すごく豪華。 「お飲み物はどうされます?」  自分が呑まないから気がつかなかったけど、進藤は普通にお酒を呑むはずだ。 「ビールでも熱燗でも好きに呑んだら?」 「ひとりで呑んでもつまんないからいいよ」 「呑めなくて悪かったわね!」 「いや、別に酒が好きなわけじゃないし」  正確に言うと呑めないわけじゃなくて、どうやら私は酒癖が悪いようなので、あまり呑まないようにしている。  大学の時の読書サークルの新歓コンパでなにかやらかしてしまったようで、次にサークルに顔を出した時に部長に「安住さんはお酒を呑まない方がいいよ。ハラハラする」と言われ、みんなにそっと目を逸らされた。  それ以来、グラス二杯までしかお酒は呑んでいない。 「それじゃあ、お茶を淹れますね」 「はい、お願いします」  私たちは手を合わせて、美味しい食事をいただいた。             「な〜、寝るまでなにする? トランプでもするか?」 「しない。私はすることあるから、進藤はソリティアでもやってたら?」 「なんでだよ〜!」  ゆっくり食べてもまだ時刻は八時過ぎ。  寝るには早いし、私はいつもの習慣がある。  かまってアピールをする進藤を無視して、カバンから教材を取り出した。 「おっ、それ、不動産鑑定士のテキストじゃん?」 「……なんでわかるのよ?」 「だって、俺もおんなじの持ってるもん。安住も受けるのか?」 「一応ね」 「俺も! じゃあさ、今度、勉強会しようぜ!」  まさか進藤も不動産鑑定士の勉強をしているとは……。  ヤツは目をキラキラさせて、提案してくるけど、なんで私がコイツと勉強会しないといけないの?  半眼になって進藤を見るけど、彼は全然気にも留めない。 「モチベーションの維持とわからないところを教え合えるだろ?」 「う〜ん」  モチベーションはともかく、わからないことを聞き合えるのはいいかもしれない。 「経済学に詳しい?」 「任せてくれ! 経済学部卒だ!」 「ふーん。じゃあ、これってどういうこと?」 「それは、な……」  私は社会学部卒だ。当然、経済学を学んでいないけど、不動産鑑定士試験にはバリバリ経済学が必要になる。  テキストを読んではいるけど、概念自体がわからないものもある。  試しに、詰まっていたところを聞いてみたら、とてもわかりやすい説明が返ってきた。助かるけど、ムカつく。 (進藤め〜、どこまでも私の上を行くヤツ!) 「安住も独立したいって思ってるのか?」 「独立?」 「違うのか? 俺はそのうち独立して、土地の有効活用とかのコンサルティングをやりたいって思ってるんだ」 「そうなんだ」  解説してくれたついでに、そんなことを言われて、少しショックを受ける。   (進藤は明確な夢があって、試験を受けるのね)  私はどちらかというと資格オタクなところがあって、仕事に役立ちそうだなって思っただけだ。  意外と真面目に将来を考えている姿に焦りを覚える。 「……教えてくれて、ありがと。じゃあ、私は勉強するから」  暗に邪魔するなと目で言って、私は過去問に取り組んだ。  なにがおもしろいのか、進藤は黙ってニコニコと私の勉強風景を見ていた。やりにくい。             しばらく集中して勉強をしていると、女将さんが声をかけてきた。 「隣りの部屋にお布団を敷いておきました。明日の朝食は七時でよろしいでしょうか?」 「あ、はい」  明日は本当の出張。ちゃんと定時の九時から働きたい。  ちらっと見ると、進藤がうなずいて、「七時で大丈夫です」と答えた。 (ところで、隣りって?)  襖を開けてみると、並んで敷かれた布団が二組。 「うわー、なんかエロいな」 「なに言ってるのよ!」  慌てて這っていって、布団を離そうとしたら、押しつぶされた。 「ちょっ……んんっ……!」  上に乗っかられて抗議しようと振り返ったら、唇を塞がれた。  にゅるりと熱い舌が入ってきて、私の舌に擦りつけられる。 「ん〜っ!」  やっぱり見境ないヤツだ!  キスしながら、進藤は私の胸を揉み始めた。 「んっ、は、ぁ、んんっ……あんっ……や……」  ツンと尖りだした粒を摘まれると、甘い息が漏れてしまう。お腹がジンとする。 「なー、お前も昨日気持ちよかっただろ?」 「昨日? なん、の……こと?」  指先でコリコリと乳首を擦られて、身をくねらせながらも、とぼける。  昨日のは夢だったって言ったのに! 「ふ〜ん、覚えてないんだ。こうやって、可愛がってやったのも?」  身体をひっくり返され、胸を揉みしだかれると、浴衣の襟が乱れ、大きくも小さくもない胸がポロンと露出した。 「やっぱり下着をつけてなかったんだな。安住もその気だったんじゃないか」 「違うわよ! 普通、浴衣に下着は着ないでしょ!」 「普通、男と同室で下着は外さないだろ!」 「パンツは履いてるもん!」  「警戒心がないにもほどがある!」と進藤は咎めるように、パクッと私の乳首を噛んだ。 「ひゃっ! ぁあ……ん……」  甘噛みされながら、先端を舌で擦られると得も言われぬ快感が走る。 「夢だって言い張るなら、思い出させてやるよ。なあ、これは覚えてるか?」    進藤は手を私の股の間に入れた。  中指が割れ目を辿る。 「や、んっ、し、知らない!」 「ふ〜ん、じゃあ、ここが気持ちよかったのは覚えてるか?」  前後していた指が、割れ目の先端に押し当てられた。  ビリッとした刺激に身体を震わせてしまう。 「な……んの、こと?」  口ではそう言いながら、そこをぐりぐりされたり、摘まれたりすると、昨日の官能が呼び覚まされて、腰が跳ねた。  いつの間にか、くちゅくちゅと水音まで響き始めて、布団をギュッと握りしめる。 「安住の身体はしっかり覚えてそうだけどなー」 「そんな、こと……ない!」 「ふ〜ん?」  進藤の手がパンツの中に忍びこんできて、蜜が滴るところを撫で回した。それと同時にまた胸を齧られる。 「あ、ふぁっ、あん……!」  喘ぐ私の中に一気に二本指が入ってきた。  バラバラに動かされて、身悶える。 「ここに俺のものを受け入れて、蕩けてただろ?」 「知らないっ!」  叫んだとたん、中の指を曲げられ、親指で外の尖りを押しつぶされて、びくんと背中を反らした。  一瞬、視界が白く塗りつぶされた。 「やあああッ!」  私が弛緩している間に、一旦、私の上からいなくなった進藤が戻ってきた。 「安住……これは覚えてるか?」  ぴくぴくしている秘部に、熱い塊が擦りつけられる。 「知らないってば!」 (昨日のはノーカウントなの!)  なんでムキになってるのかよくわからないままに叫ぶと、それがずぶっと入ってきた。   「ああんッ」  快感が脳を直撃した。 (もうっ、なんでこんなに気持ちいいのよ! ムカつく!)  そう思うものの、喘ぎ声しか出せず、進藤に揺さぶられる。 「ふ、ぁあんっ、あっ、あっ、だめっ、そこッ!」  うれしそうな顔した進藤が顔を寄せてきて、キスされる。胸を捏ねくり回される。奥を穿たれる。  それは私が何度もイって、脳が蕩けるまで続けられた。 「……クッ、安住……○○○だ!」  ひときわ奥を強く突いて、進藤も果てる。  ギュッと抱きしめられてなにか言われたけど、目の裏がチカチカしていた私はそれどころじゃない。 「なにか……言った……?」  せっかく聞き返してあげたのに、進藤はガックリと肩を落とした。 「……おまえ……俺の渾身の告白を……」 (告白? なにか弱点でも告白してくれたのかな? 快楽とか誘惑に弱いとか? もう知ってるし)    それを言ったら、悔しいけど、私もだ。  ──実はすげー淫乱なのか?  昨日進藤に言われて否定したけど……。 「実は淫乱なのかもしれない……」 「はあ? なんで? もしかして、いろんなやつとヤってるとか?」  進藤がガバッと顔を上げ、目を見開いた。 「バカッ、そんなわけないじゃない! 昨日が二回目だったのに!」 「二回目!? ってことは、今ので俺が三回? 勝った!」  なんの勝負に勝ったと言うのか、わけわからないけれど、進藤は拳を上げた。 「ん? じゃあ、なんで淫乱なんだ?」 「だって、好きでも付き合ってもないのにこんなことして気持ちいいなんて……」 「お前なー、さらりと残酷なこと言うなよ〜」  進藤がまたうなだれた。  耳が垂れているのが目に見えるようだ。  ヤツがなにを落ち込んでいるのか、わからない。  『また襲ってしまった』って後悔しているのかな?  どうでもいいけど、人の身体の上でうなだれないでほしい。  と、いきなり進藤は顔を上げ、いいことを思いついたというように顔を明るくした。 「淫乱が嫌だったら、俺だけにしとけば? 付き合う?」 「なんで、私があんたと付き合わないといけないのよ!」  そう言いながら、そうか進藤だけだったら淫乱ではないかとちょっとほっとした。 「そううまくはいかないか……」  なぜか進藤が拗ねた。 (魅力的だからといって、誰でもあんたと付き合いたいと思ってるなら大きな勘違いだからっ!)    私はヤツを押しのけた。  
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