プロローグ

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プロローグ

就職氷河期真っ只中に大学を卒業した西村奈々は、努力の甲斐むなしく就職浪人となってしまっていた。 家庭の事情も相まって就職活動に遅れが出たことは否めない。それでも何度か二次面接まで突破したり、最終面接までこぎつけたこともある。だが結果はどれも残念なもの。 奈々だけではない。非情にもこの年は学生にとって厳しいものとなっていた。 だからといって落ち込んでいる場合ではない。ニート、フリーター、浪人、その選択肢は奈々の中にはなかった。 何通ものお祈りメールを貰う中なんとか職にこぎ着けたのは、“派遣社員”という形態の働き方だった。 エクセルとワードのテスト、そして簡単な面接。それが一日で終わる。今までの就職活動は何だったのかと思うほどあっけなく派遣社員として採用された。 そして、就職活動中なら絶対に辿り着けなかったであろう大企業に事務職として派遣されることになったのだった。 奈々が派遣社員として働き初めて三年目──。 「ねえ、奈々。今年の連休は奮発して海外に行こうよ」 「海外?!どこか行きたいところあるの?」 「ニューヨーク!」 「ええっ、ニューヨーク?!」 同じ部署で同じく派遣社員として働いている水野朋子は奈々と同じ年代で入社以来仲がいい。毎年長期連休には朋子とプチ旅行するのが慣例になりつつある。 いつもは国内の温泉やらグルメで行き先を決めるものの、今年の朋子の提案は海外、しかもニューヨークである。 「いやあ、この前昔の映画でタイムズスクエアを観てさ、一気にハマっちゃって行きたくなっちゃったのよ~。青春映画なんだけどね、主演のロビンジョンソンが最高にいいよね!」 「ごめん朋ちゃん、全然わからないわ」 一人盛り上がる朋子に、奈々は申し訳なさそうに微笑んだ。 奈々としては特にここに行きたいという強い意思はない。朋子がこんなにも盛り上がっているのだ、それに付き合ってあげるのもいいかもしれない。 「とりあえず私もそのタイムズスクエア?観てみようかなぁ」 「さっすが奈々、わかってるぅ!」 朋子はテンション高くご機嫌になり、奈々も旅行の計画を立てるのが楽しみになったのだった。
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