先輩の映画を完成させてあげてほしいんだ

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「んなわけで、新興の部活はひとまず本校舎の空き教室が宛がわれているんだよ。ま、べつに部室練の部屋が特別綺麗ってわけじゃないし、本校舎の空き教室で十分だけどさ」 「なるほどねー」 「かと思えば、全然自由じゃないじゃんって思うこともいっぱいあるけどね、海高って」 「たとえば?」 「遅刻にうるさすぎる」  白は忌々しそうに言った。 「校門には、必ず守衛さんがいるでしょ? で、指定の登校時間を1分でも過ぎると、守衛さんに止められるんだ。学生証を提示して、そんでもって名簿に名前を書かされて、後で担任の先生に報告されるんだよ」 「なんでそんなことを?」 「なんかね、何年か前に、不審者が学校に侵入する事件があったんだってさ。しかもその不審者は、オークションで手に入れた海高の制服を着て、生徒に化けていたらしいんだ。それ以降、出入りを厳しく監視するようになったんだってさ。でも、さすがに全員をいちいちチェックするわけにはいかないから、登校時間中は大目に見てるって感じだと思う」 「ふぅん。でもさ、生徒に名前を書かせた後、先生に報告する理由はなくない?」 「さあね。その理由は知らないよ。でもまあ、たぶん、遅刻を誤魔化せないようにするためじゃないかな。ほら、先生って会議とかでたまに朝のホームルームに遅れてくるでしょ? だからギリギリ遅刻の生徒が『ちゃんと時間内にきていました』って嘘をつくこともできる。それが嫌なんじゃないかな。後で防犯カメラをチェックして、生徒の言葉が本当かを確かめるなんて面倒な真似をするわけにもいかないだろうし」 「……なんか、いろいろ大変なんだね、先生たちも」  他人事ながら、黒の胸に労いの気持ちが湧いてきた。 「そんなルールがあったなんて、全然知らなかったよ。あたし、遅刻って一回もしたことないし」 「私はしょっちゅうだ」  たしかに、白は一年生のときから時間にルーズだった。 「まったく、生徒の自由はいずこ」  白はぼやく。 「監視社会反対」 「遅刻が自由のうちに入るのか、あたしには疑問だけどね」 「黒は馬鹿マジメすぎる。馬鹿だ」 「うっさい」  少し雑談をしたあと、今日はお開きにしようということになった。 「んじゃ、おやすみ。ヘンな夢見てね」 「おやすみ、白。ひと言余計だよ」  ベッドに倒れこんで、黒は天井をぼうと見つめる。そして、ずいぶんと長い一日だったなと思った。 「……でも、明日はもっと長い一日になりそうだな。なんとなく」  黒の予感は、見事に当たることになる。
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