映画部へようこそ

1/4
66人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ

映画部へようこそ

◇7月18日  黒はいつもどおり、朝七時に目覚めた。ゆっくり朝食を食べた。テレビで星座占いを見て、自分が最下位であることに落ち込んだ。 「行ってきます」  準備を終えて玄関を開けると、むわっとした熱気がずうずうしく抱き着いてくる。  イヤホンをつけて音楽を聴きながら、海辺の道を歩く。  海は晴天を映して輝いている。砂浜には、既にたくさんの海水浴客がいる。サーファーもいる。車道沿いの駐車場には、県外のナンバープレートをつけた車がたくさん停まっている。高校生よりも早く夏休みに入る大人が案外多いようだ。  アオデンが黒を追い抜いていく。  踏切を渡って、長い坂道を上っていく。真夏の坂道は拷問のひとつに数えられる。  坂道を上って高台の上に到着すると、急に町が栄え始める。コンビニやレストランやオフィスビルがあちこちにあって、大通りをたくさんの自動車が行きかっている。静かさだけが取り柄の黒の家の周辺とは、まるで別世界だ。  そんな別世界に、海高はある。顧客から巻き上げた潤沢な資金をふんだんに注ぎ込んだ私立高校。広大な敷地に建つモダンなデザインの校舎を見るたび、黒は親に対して申し訳ない気持ちになる。  本当は、隣町の公立高校に入学する予定だったのだが、試験に落ちてしまった。黒は勉強が得意なほうだったが、ちょっと自分の実力を見誤ってしまったのだ。  校門を通って少し歩くと、本校舎に到着した。教室の席につき、ぼんやりと窓の外を眺めた。  やがてチャイムが鳴り、朝のホームルームが始まった。赤坂先生が出欠をとっていく。  欠席は、白と青陽と綾香の三人だった。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!