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俺は絶望した。だから死ぬ
◇7月17日
外では雨が降り続いている。六限目の終わりごろに降り出した、激しい雨だ。
土砂降りの中帰るのダルいなあ。天気予報では降らないって言ってたのに、騙されたー。
そんなことを考えながら、黒は机に頬杖をついて、二年F組の教室の窓の外を眺めていた。
教室の中では、帰りのホームルームが行われている。
教壇の上で赤坂優子先生が何かを話しているけど、黒は上の空でまったく聞いていなかった。ずっと窓の外を見ていた。
ふいに、女子生徒の一人が、「青陽くんは早退ですか? ずっと教室にいませんが」と先生に尋ねた。
確かに、三限目の体育の授業以降、青陽を見ていないなと黒は思った。
「はい。青陽くんは早退しました」
「体調不良ですか?」
「急用ができたと言っていました」
「急用?」
男子生徒が首を傾げる。
「でも、青陽のやつ、今日バンクーバーに行く予定でしたよね? なんとか留学ってやつで」
「そうですね。もともと彼は今日、短期留学のためカナダへびゅーんの予定でした。なので、もともと昼休みに早退する予定でした。でも急用ができて、急遽三限目の休み時間に早退しなくちゃ飛行機に間に合わなくなったみたいですね」
「てか、カナダとか初耳だわ!」
べつの男子生徒が声を上げた。
「俺は聞いてたよ。お土産もリクエストしておいた」
「マジか! ひでぇ! 差別だ!」
「お前、友達だって思われてねぇんじゃねーの?」
「ひぇ~!」
クラスがどっと笑いに包まれた。
黒も周りに合わせて、軽く笑みを浮かべておいた。
青陽が今日早退してカナダへ発つことは、黒も知っていた。二週間くらい前に、彼が友達とその話をしているのを、小耳に挟んだのだ。
しかし、急用、か。なんだろう?
当初の早退の予定時刻である昼休みまですら待てないほどの、火急の用事。
ていうか、そもそも、明日は終業式である。夏休みが始まるまであと一日ってわけだ。
あと一日バンクーバー行きを待てなかったのかとツッコミたくなるが、まあ、彼には彼の事情があるのだろう。
ともかく彼はこの夏、カナダで優雅に過ごすのだ。羨ましいことで。ちぇっ。
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