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3年前、姉は交通事故で意識を失った。
運良く一命は取りとめたものの、あの日から目覚めることはない。
姉は高校受験のため、父の運転する車の助手席に乗っていたそうだ。
父が一瞬、脇見をしてしまった時、トラックと正面衝突した。
そのせいで――。
「分かってるわよ私だって! だいたいあなたいつも勝手に」
「勝手にってなんだよ! お前こそいつも」
家に着くと、リビングから聞こえてくる怒声。事故の日から、人並みに仲の良かった家族に亀裂が入った。
父が脇見をしなければこんなことに、と母は思っているだろうし、父も拭いきれない罪悪感を母にぶつけているようだった。
「ただいま」
リビングに行くとぴたりと怒声は止み、二人の視線がこちらに向く。
「あら、おかえり理久」
「どうだった?」
「受かってた」
俺の登場で取ってつけたように笑顔を作る二人に、無理やり笑顔を作った。
「良かったわ、おめでとう」
「夢のプロサッカー選手への第一歩だな」
「だといいけどな。親父、あとでネクタイの巻き方教えてよ」
「ああ、了解」
“いい息子”を演じるのもすっかり板についたと思う。
周りが反抗期を迎えるさなか、空中分解した家族を繋ぐ糸は自分しか居ない。
ここで自分が反抗期なんて迎えたら、両親はいよいよ決別してしまうかもしれない。
小学六年生の春、俺は悟った。
中学から始めたサッカーは我ながら要領の良さで、すぐにエースへと上り詰めた。
試合で活躍する俺を見てもらうことで、少しは両親の気晴らしになったと思う。
自分の部屋に上がり、ベッドに横たわる。ふう、とため息をついた。
制服のポケットに入れたままの受験番号が書かれた紙を取り出して眺める。
間違えて俺の席に座っていた進藤のどこか抜けている姿と、弓矢を構える姿を交互に思い出した。
高校で、また会えるだろうか。
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