一、雪の中の鶴

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 「ごめん。俺一個後ろだったね」  当然、悪気があって人の席に座っていたわけではないらしい。  男はすぐに荷物をまとめ出す。  立ち上がった拍子に、机に置かれた男の受験票が舞い上がったのを反射で掴んだ。  受験票の文字が目に飛び込む――スポーツ科受験、受験番号128、進藤唯斗(しんどう・ゆいと)。  この男も、スポーツ科志望なのか。 「ありがとう。お互い受かるといいね」  受験票を返すとそう言って微笑まれる。  第二の印象は、〝運動部っぽくないな〟。  どこか抜けていて優しげな雰囲気をまとう進藤。  背丈も体の厚さも、自分よりひとまわり小さく中性的な雰囲気さえ感じさせる。  進藤が闘争心を剥き出しにして何かのスポーツに向き合う姿がまるで想像できなかった。  
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