一、雪の中の鶴

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 試験会場の教室を出て、渡り廊下から玄関へ向かう。  内履きから外靴に履き替えて高校を出ると、冷たい風が鼻奥に入ってきてツンと痛む。吐く息が白い。  スクールバッグにしまっていたグレーのマフラーを首に巻いてから、スマートフォンの電源を入れた。  父親から来ていた「受験おつかれ。どうだった?」というメッセージには「まあまあ出来たと思う」なんて返したけれど、受かるだろうというのが本音だ。    “進藤”はどうだったろうか。  ストン――。  聞き慣れない音が、遠くから響く。銃声にも似た、けれどなんというかもっと、ソフトな音。  その音がどうにも気になってしまい、音のした方へと向かう。  中学の砂地のグラウンドとはまるで綺麗さの違う、広い芝生のグラウンドの脇を歩いていくと、「弓道場」が目に入る。  フェンスに覆われて、中に入ることは出来なかったけれど、遠まきに様子を見ることができた。  学ラン姿で弓道場に立っている生徒の横顔が見えた。  その姿に、違和感を感じる。翔陽の制服は紺色のブレザーだったはずだ。  一瞬だけ、生徒の顔がこちらに向く。 「え……」  驚いた。弓を手にしているのは進藤だった。ああ、弓道専攻か。  その事実に、妙に納得する。  一人静かに的を見つめ、集中を武器にして戦う。  そのたたずまいがとてもよく似合っている。  柔らかでよく通る進藤の声が、遠くからでも聞こえた。 「まだ受かってもいないのに、打たせてもらってありがとうございます」 「いやあ、進藤くんは期待のエースだから。入学するのを心待ちにしているよ」 「受かるといいんですけどね」 「進藤くんなら大丈夫だろう。好きなだけ打っていくといい」  白髪の教師と談笑していた進藤が、垂直に姿勢を正して弓を構える。  瞬間、目の色が変わった。  抜けているとか、優しげだとか、そんな雰囲気を払しょくした、凛としてどこか冷淡さまで持つ瞳。
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