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「姉貴、第一志望の翔鷹高校、受かったよ」
ここはいつ来ても、同じニオイがする。洗いたてのシーツと消毒液が混ざったような、怖いほどに清潔なニオイ。
四角い黒背景のモニターからピピッピピッと一定のリズムで電子音が聞こえる。
緑の波形がしっかりと表示されるのを見て、今日もほっと息をつく。
「翔鷹はブレザーなんだけど、俺、似合うかな」
小さなテレビの脇の花瓶には、枯れかけた花が飾られている。
母か、友人が飾っていったものだろうか。
「高校のすぐ近くで花屋見つけてさ」
萎れた花と、買ったばかりの赤いガーベラを取り替えながら言葉を絶やさずにつむぐ。
「ネクタイちゃんと結べっかな。親父に教えてもらわねえと」
何を話しても、ベッドで眠る姉からの返事はない。
自分の声だけが木霊する病室に、最初こそ寂しさと照れがあったものの、それも今やすっかり慣れた。
「じゃあ、またな」
姉の病室から出ると、担当の医師が向こうからやってくる。
「おや、弟くん。今日も来てたんだね」
「こんにちは。姉がいつもお世話になってます」
「少し見ない間にまた一段と男前になったね、背も伸びたんじゃ無いか?」
「そうっすね、背は伸びたかもしれないです」
白髪の医師の言葉に微笑みと曖昧な言葉を返して、下りのエレベーターに乗り込んだ。
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