何か資格はお持ちですか?

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最終選考まで辿り着いたのは拓也を含めて三人で、残り二人は大人の男女だった。案内された部屋はがらんとしていて広く、壁は厚く薄汚れており、冷たい空気がこびりついている。明らかに他と造りが違っていた。拓也たち受験者と試験官の他にガードマンらしき人間まで立っているのだ。試験官が再び淡々と告げる。 「全員揃いましたので、これより最終選考を開始致します。ここにいる人間を一人選んで殺して下さい。方法は自由です。毒や刃物など道具は角にあるロッカーに揃えてあります。なお、彼らは抵抗はしませんし死刑囚ですので罪には問われませんのでご安心下さい。殺すことができた方のみ合格となります。棄権も可能です。では、どうぞ」 「「「え!?」」」 三人の声が重なった。 「おい!マジかよ!冗談だろ!?」 「あなた、頭おかしいんじゃないの!?」 二人が叫んだが、試験官の表情は変わらない。 「棄権なさいますか?不合格になってしまいますが」 試験官の言葉を聞いた二人は彼と同じように無表情になった。男は「くそぉぉーっ!」と叫びロッカーまで走ると一つを乱暴に開け、そこに入っていたサバイバルナイフを取り出し構えた。女は、とぼとぼと歩いて辿り着き無言で上から順番にロッカーを開けている。拓也は動けなかった。 人間を殺す?どうして?意味が分からない。殺さなければ人間とは認められない。でも本当に殺してしまっていいのか?そうまでして人間になりたいのか?それなら僕は―― 「試験官さん。僕は人間として生きたいんです。殺せと言うなら僕が人間として死を選びます」 拓也は頭部から自分のチップを取り出すと、手で握り潰した。メリッ…バキバキバキッ!と不自然な音を立てて、それは粉々になった。
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