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拡声器を携えた試験官の後ろについていき通路を少し歩くと前に十枚のドアがあった。
「今から一週間、この部屋で過ごして下さい。風呂とトイレ以外にはカメラが設置されておりますし声も聞き取れますので何かあれば発言してもらって構いません。食事はこちらで用意します。では、どうぞ」
八人は、それぞれ別の部屋に入った。まるでホテルだ。ただ、テレビと窓がない。本来ならテレビがありそうな場所には、ホログラムで受験番号だけが大きく表示されている。カメラは見つけられなかった。
スリープモードにするか、究極は電源を切ってしまえば簡単にやり過ごせるが、それはヒューマノイドにしかできないことだからだめだ、と拓也は思った。ベッドに座ってしばらく考える。
家で過ごしている時と同じ状態で待つしかない。一日目から時間を持て余してしまい二日目からは「資格とは?」「布団は何故、布団なのか?」など普段なら浮かばないような疑問について考えたり、童心に返ってベッドの上で跳ねたりしてみた。時計を見て、いつもと同じ時間に就寝し充電もする。それでも退屈すぎて五日目にベッドで声を上げた。
「あの…ちょっとだけ出てもいいですか?建物からは出ないので…」
すると、どこかにスピーカーがあるのか「どうぞ」と声が聞こえた。その途端、受験番号が通過という漢字に変わった。
表示については出たついでに尋ねようと思い部屋を出ると外で試験官が待機していた。
「あの…ホログラムが通過になってますけど」
「ええ。貴方は通過されました。おめでとうございます。次が最終選考です。こちらへ」
拓也は道すがら「どういうことですか?」と聞いた。「人間は長い間、閉鎖した空間に閉じ込められてしまうとストレスが溜まるんです。意図的にシャットダウンできる我々と違ってね。ですから何かしら助けを求めた方は通過というわけです。他言無用ですよ」試験官が振り返りウインクした。
「人間じゃなかったんですか!?」
そう声を上げると彼は前を向いたまま声色を変えた。
「ワタシ、ニンゲン、トハ、イッテ、オリマセン、デス」
前に時代劇で見たロボットの声そのものだ。はは、すごいや!と拓也は笑った。
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