前妻がおめでとうなどと言うわけがない

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 洋介は我に返って目の前で止まったままのエレベーターに乗り込み、自室のある七階のボタンを押した。エレベーターが動き出す。ゆっくりと上昇するドアのガラス窓をぼんやりと眺めていた洋介は、三階を過ぎる辺りでギョッとして後ずさった。それはガラス窓ぎりぎりのすぐ外に、白いコートを着た髪の長い女が立っていたからである。女は髪を前に垂らして俯いていた。いやそれが単に下りのエレベーターを待ってる誰かだったのなら深夜にしろ特段驚くことではない。  しかし洋介はギョッとしたのだ。  なぜなら白いコートの女が、別れた妻の瑛子だったからに他ならない。あまつさえ、女が来ていたコートにも見覚えがあった。それはいつのクリスマスかまでは覚えていないが、洋介がプレゼントしたコートだった。 『とても素敵だけど、白いコートなんて私に着こなせるかしら』  と、瑛子は謙遜じみた言葉とは裏腹に嬉しそうに弾んだ声で、コートを広げて体に当てて見せた。 『大丈夫だよ、瑛子はスタイルが良いから似合うと思うよ』  と、洋介は答えた。事実、スラリと長身の瑛子に白いロングコートは良く似合った。  それは何年も前のクリスマスの話だ。 『何なんだ気味が悪い。ハガキといい、一体あいつ何を考えているんだ』  七階で降りた洋介はエレベーターのドアが閉じるのを待った。ドアが閉じエレベーターは下に降りて行く。三階で止まると思いきや、エレベーターは一階までまっすぐに降りて行った。  洋介はついさっき後退るほど驚いたにもかかわらず、階段を三階まで駆け下りて瑛子を捕まえようとしたが彼女はもういなかった。彼はさらにそのまま一階まで階段を降りた。しかしエントランスにも外の通りにもどこにも瑛子の姿はなかった。  
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