前妻がおめでとうなどと言うわけがない

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 瑛子を捕まえて文句の一つでも言ってやろうとした洋介は、釈然としないまま再びエレベーターで七階まで戻った。しかし今度は自室のドアに挟まっている白い紙切れに気づいた。まさかこれも瑛子か?……洋介は紙きれを手に取りドアを開け、靴を乱暴に脱ぎ捨て部屋に上がった。リビングに入り灯りを付ける。紙はB 4のコピー用紙だ。 果たして二つ折にした紙の中央にはまたしても「おめでとう あなた」の青いインクの文字がハガキと同じく縦に書かれていた。 『あいつ何の嫌がらせのつもりだ。ふざけるな』  洋介はコピー用紙をくちゃくちゃに丸めてゴミ箱に放り投げ、そのままソファにドスンと座り込んだ。ほんの今しがたガラス越しに見た瑛子の姿が頭に浮かぶ。心の病は随分治ったらしいと人伝いに聞いていたが、違ったのか。今更何しに来た。「おめでとうあなた」などと──洋介はしばし瑛子と別れる前の暗く不安な気持ちに引き戻された。
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